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写真集をつくるにも、写真展を開くにも、自分の作品を発表する前には、プリントやポートフォリオを第三者へ見せる作業が必要です。
そのとき、どんなことに気を付けるべきでしょうか、また効果的にプレゼンするにはどうしたらいいでしょうか。
自分の写真を誰かに見せるために、「ポートフォリオ」をつくっている人は多いのではないでしょうか。複数のプリントを本のようにまとめた「ブック」とも呼ばれるもののことです。まとまった数の写真を見せることができ、扱いやすいので、プレゼンツールとしてよく使われます。ですが、何となく気に入った形にした、とりあえずプリントをまとめてファイルに入れた、という人が多いのではないでしょうか。
ポートフォリオをつくる際に大事なのは、最終的な目的は何か、ということ。つまり、何をするためのポートフォリオなのか、ということです。カメラマンとして雑誌の編集部に自身をアピールする場合と、写真集をつくるために出版社に行く場合と、ギャラリーでの個展を目指す場合では、ポートフォリオのつくりは変わってくるはずです。雑誌のカメラマンといっても、それがグルメ雑誌なのかファッション雑誌なのか報道なのかでも違います。同じものが流用できる場合など、まずないでしょう。目的に沿ったポートフォリオをつくり、プレゼンすることが必要です。
【ポートフォリオ(ブック)の例】
このように、市販のクリアファイルにプリントを入れた形が一般的。
ギャラリーでの写真展を目指し、その選考のためのポートフォリオをつくる場合、実際のプリントとポートフォリオの大きさの違いが問題になってきます。前編で、物質と関わる部分をおろそかにしてはいけない、どんな道具や素材を使うかは大事だとお話ししました。そこで同時に重要な意味を持つのが、作品のサイズです。自分がその作品で提示したいことにとって最適な大きさというのがあるはずです。
ですが、例えば、オリジナルのプリントはB0なのにポートフォリオだからA3くらいにしかできないという状況はよくあります。小さくしたためにその描写や迫力を示すことができない、テーマが伝わらない、というようなケースです。こんなときは、ポートフォリオと一緒に展示イメージを提出するといいでしょう。一番いいのは、実際にプリントを飾った場所を撮影した写真などを添えることですが、文章でサイズや枚数を記してあるだけでも大きな意味があります。写真展は空間をつくるメディアですから、サイズの持つ意味は非常に大きいです。ポートフォリオをつくる際にもそれを意識することが大切です。
■ 昨年、八戸市美術館で開かれた「北島敬三 種差 scenery」展では、100×120cmサイズのプリントを展示。「近づいたときに見える繊細なディティールと、離れて見たときの全体的な強い印象とのバランスを考慮して、このサイズにした」と北島氏。
【展示イメージ図の例】
このように、ギャラリーでどう展示したいかを示した図を添付するといい。ポートフォリオではわからない応募者の意図を、選ぶ側に伝えることができる。左図はエプサイトでスポットライトに選出され写真展を開催した木藤富士夫さんの例。
写真集をつくるために編集者に見せるポートフォリオであれば、見開きの写真の組み合わせ方や、全体にどんな流れをつくるかなどが重要になってきます。つくりたいものが本の形にしないと見えてこないような内容であればなおさら、ポートフォリオの編集を丁寧にするべきです。
ですが、すべてのケースがこれに当てはまるわけでもなく、ポートフォリオに編集して見せるより、プリントの束で見せたほうがいいこともあります。編集者もいろいろな人がいます。相手によっては、また内容によっては、素材を見せただけのほうが創作意欲を刺激できる場合もあります。
いずれにせよ、やってみないとわからないことですから、何度でも挑戦してみるといいでしょう。“七転び八起き”です。断られても傷つく必要はありません。くじけずに一番いい出会いを探すことです。出会いとは“会社”ではなく“人”です。出版社の名前や規模よりも、編集者を見るべきです。自分の写真を面白いと感じてくれて、1対1で向き合える編集者を見つけてください。
審査などを通じていろいろなポートフォリオを見てきましたが、“水増し”にがっかりすることがよくあります。枚数を増やすために、いま一つの作品を入れてしまい、全体としてつまらないものになっている、ということです。応募する側としてはたくさん見せないといけないと思うのでしょうが、この水増しのせいで、全体の質が低くなり、何がしたいのかも不明瞭になる、という失敗が実に多く見られます。納得している写真が10点あるなら、それだけでポートフォリオを構成したほうがいいと思います。
ポートフォリオでもプリントでも、大勢が集まる会場で所定のスペースに写真を並べて行うプレゼンもあります。こうした場合にも、プリントであればくっつけて並べた方がいいのか、1点ずつ独立させて並べたほうがいいのかなど、内容に照らして考えましょう。
また、ライティングも重要です。大きな会場になるほど、場所によって光の状態が違います。暗い場所では、せっかくの写真も台無しです。できるなら、光のいい場所を確保しましょう。たとえ小さなスペースでも、個展だと思うくらいの気構えが必要です。
■ 2013年12月7日に東京・渋谷で開催された写真を見せるイベント「meet up!」(エプソン販売主催)の様子。このイベントでは、参加者は決められたスペースに自由に作品を並べて見せ、一般の来場者やゲストの写真家・編集者からコメントをもらえる。
いろいろな公募で、作品にステートメント(文章)を添えて出すことが求められます。自分のプロフィールや作品のテーマを書き記したものです。選考する側がこれで何を見ているかというと、応募者の写真に向き合う姿勢、撮る人として何を見ているか、です。応募者の動機やテーマは本当か、を確かめているとも言えます。
写真というのは、運よく“撮れてしまう”場合があります。ですが、文章を読めば、その作品がたまたまうまくいっただけの写真なのか、真摯な姿勢や本当の気持ちの結果なのかどうかがわかります。ですから、ステートメントの提出が義務づけられていない場合でも、自己紹介のつもりでしっかり書いて出すことをおすすめします。
細かいことをいろいろとお話ししましたが、経験しなくてはわからない部分が多いと思います。いろんなチャンスに挑んでみてください。失敗しても落ち込むことはありません。そこから学んだことを次にいかせばいいのです。何を目指すにしても、スタートはプレゼンからです。頑張ってください。
北島敬三 Keizo Kitajima 1954年、長野県生まれ。WORKSHOP寫真学校の森山大道教室に参加。 1976年よりイメージショップCAMPに参加。独自の作品発表方法で注目される。 1983年『NEW YORK』で木村伊兵衛写真賞を受賞。 他の作品集に『USSR 1991』『A.D.1991』などがある。 |