サステナビリティ経営のトピックス サステナビリティ経営のトピックス
2015年のパリ協定採択以降、気候変動を中心とした環境・社会課題に配慮した事業活動が企業に求められています。ESGへの配慮を投資への判断材料にする投資家や金融機関が増え、企業の中長期的な持続可能性を判断するためのサステナビリティ情報開示への要求が高まる中、乱立する開示基準の統一に向けた国際的な動きも進んでいます。今回は、サステナビリティ情報開示を取り巻く動きについて整理します。

PRIの発足と6つの原則

さまざまな開示基準の作成や規制など、サステナビリティ情報開示を巡る動きは刻一刻と変容しています。サステナビリティ情報開示への機運を高めている大きな要因の1つに、投資家サイドの意識変容があります。投資時に、財務面だけでなく、環境保護や人権問題などESGに配慮した責任投資を行う意思を宣言する『責任投資原則(PRI)』への署名機関は、2006年の発足から伸び続け、近年は、2019年の約2,500から2024年の約5,000と5年で2倍以上に増えています。
PRIは、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)と国連グローバル・コンパクトと連携した投資家イニシアティブです。
その歴史は古く、2005年に当時の国連事務総長であったコフィ・アナン氏が世界の大手機関投資家に対し、責任投資原則の策定に参画するよう要請したことが始まりでした。世界12カ国から選ばれた20名で構成された大手機関投資家グループが、投資業界・政府間組織・市民社会の専門家70名で構成されたグループの支援のもと、以下の6つの原則を策定しました。

『PRIの発足と6つの原則』のイメージ
(画像はイメージです)

【6つの原則】
1)投資分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込む
2)活動的な所有者となり所有者方針と所有者習慣にESGの課題を組み入れる
3)投資対象の主体に対してESGの課題について適切な開示を求める
4)資産運用業界において本原則が受け入れられ実行に移されるように働きかけを行う
5)本原則を実行する際の効果を高めるために協働する
6)本原則の実行に関する活動状況や進捗状況に関して報告する

高まる投資家からの要求で重要性を増す企業のESG

中長期的な価値の追求を行う責任ある投資家をリードし、現在・将来世代のための真の豊かさと包括的な社会に貢献できる投資活動を推進するとともに、経済効率性が高く持続可能なグローバル金融システムを構築することが、PRIの大きな目的です。
ESGを推進していくための国際的なフレームワークとして存在し、PRIに署名した投資家・金融機関は、ESG課題を投資分析と意思決定プロセスに統合することを約束することになります。国連が投資家に対し"ESG課題を考慮すべき"と明示し、具体的な行動指針を提供したことは、その後のESG投資の普及と企業におけるESG活動の推進に大きな影響を与えました。世界のESG投資額の統計を集計している国際団体GSIAの統計報告書『GSIR』2022年版では、2022年の世界全体のESG投資額は30.3兆米ドルで、世界全体の投資額に占めるESG投資比率は24.4%となったと発表しています。
PRIには2024年12月時点で5,200以上の機関が署名しており、運用資産は2021年4月時点で120兆米ドル以上に達しています。環境、社会およびガバナンスを投資の意思決定とアクティブ・オーナーシップに含めることは、もはや"良い行い"であるだけでなく、"不可欠な行い"と考えられています。
こうした投資家の動きを背景に、資金提供を受ける側の企業のESGに対する意識も急速に高まっていったと言えます。

乱立する開示基準、"アルファベットスープ"という課題

『乱立する開示基準、"アルファベットスープ"という課題』のイメージ
(画像はイメージです)

日本では、2015年9月に世界最大の公的年金基金である『年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)』がPRIに署名したことでESG投資への関心が一気に高まり、投資判断のベースとなるサステナビリティ情報開示にも注目が集まるようになりました。
サステナビリティ情報開示についてはこれまで、さまざまな機関が任意の開示基準を作ってきました。多くの日本企業がサステナビリティ情報開示のフレームワークとして活用しているGRIの『GRIスタンダード』(組織が経済・環境・社会に与えるインパクトに関する情報をマルチステークホルダーに対し公開する際の基準)をはじめ、企業や自治体などを対象にグローバルな情報開示プラットフォームを運営する国際NGOであるCDPの質問書、国際統合報告協議会(IIRC)の『IIRCフレームワーク』、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)の『SASBスタンダード』、気候変動開示基準委員会(CDSB)の『CDSBフレームワーク』などがその例です。

一方で、多種多様なイニシアティブがそれぞれの基準を作ってきたことで、開示基準やフレームワークが乱立する"アルファベットスープ"という状態が問題視されています。企業は開示基準を複数用いて報告書を作成するためにリソースを割くことを強いられ、投資家側は多様な基準のデータが氾濫していることで、どのデータを参考に比較するべきか判断できず、専門のシンクタンクに評価依頼をしなければならないといった無駄も生じています。
こうした状況の中、サステナビリティに関連した財務情報を資本市場へ提供するための世界標準となるようなサステナビリティ開示基準の開発が進められているというのが、世界的な潮流です。後編では、この潮流と今後の動向について解説します。

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