サステナビリティ経営のトピックス サステナビリティ経営のトピックス
2015年の国連サミットでSDGsが採択され、COP21でパリ協定が合意されて以降、企業のサステナビリティへの取り組みが、本格的に求められるようになっています。世界全体がサステナビリティを重視する方向へ大きく動く中、日本でも2020年に菅内閣が「2050年のカーボンニュートラル」を宣言しました。国内外における環境関連の法規制(IFRS,ISSB,SSBJ含む)の動向を踏まえ、企業経営におけるサステナビリティの在り方について考えます。

サステナビリティは企業が果たすべき社会責任

サステナビリティは企業が果たすべき社会責任

今後、企業が継続的な事業活動を行っていくには、サステナビリティを意識した経営が求められると言われています。
サステナブル(Sustainable)とは、「持続可能な」「維持できる」といった意味を持ち、その名詞形であるサステナビリティ(Sustainability)は、日本語では「持続可能性」と訳されます。
サステナビリティの単語は、1987年「環境と開発に関する世界委員会」(委員長:ブルントラント・ノルウェー首相(当時))が公表した報告書「Our Common Future」の中で使われており、報告書の中心的な概念として「持続可能な開発」(Sustainable Development)の考え方が強調されました。
これまで環境保護の文脈で用いられることが多かったサステナビリティですが、近年は、「企業が果たすべき社会責任」として語られるようになりました。今、機関投資家をはじめ世界が企業に求めるのは、自社の利益だけでなく、環境問題や社会問題の解決にも貢献するような事業活動の在り方です。そうした事業活動のひとつに、脱炭素経営やサプライチェーン全体における持続可能な調達への取り組みが挙げられます。

環境に係る情報開示の動向 海外・日本の動き

2023年6月、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が、最初のIFRS(注1)サステナビリティ開示基準となるIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」とIFRS S2号「気候関連開示」を公表しました。

(注1)IFRS:国際財務報告基準

ISSBは、乱立するサステナビリティ開示の基準を統一する目的で、国際的な会計基準であるIFRSの作成に係るIFRS財団が2021年に設立した審議会で、国際的なサステナビリティの開示基準の検討を行ってきました。
気候関連情報開示については、国際的に採用されている枠組みとして「TCFD提言」がありますが、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は2023年10月で解散し、2024年よりIFRSが気候関連開示の進捗状況の監視を引き継ぐこととなっています。IFRSのS1・S2は2024年1月1日以降からの年次報告期間から有効であり、今後はIFRSのサステナビリティ基準がグローバルスタンダードになるとみられています。

環境に係る情報開示の動向 海外・日本の動き

こうした動きの中、日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)は2024年3月にサステナビリティ開示基準の公開草案を公表しています。これは、IFRS S1号・S2号に相当する〈日本版の基準〉として、国内のプライム上場企業における開示への適用を見据えて開発されたもので、2024年度中には内容を確定する予定となっています。
TCFDから国際会計基準であるIFRS S1・S2に移行することで、今までプライム上場企業のみに求められてきたTCFD項目の開示が、スタンダード企業、グロース企業にまで求められる可能性も出てきています。開示基準が統一されたことで、今後、企業に求められる情報開示の必要性は一層高まっていくと予想されます。また、情報開示については、IFRS S1号・S2号への統合による会計基準への対応が必要で、IFRSの開示義務に付随しScope3算出による温室効果ガス(GHG)排出量の可視化が求められることになります。日本版のSSBJ基準においても、「気候関連開示基準」では、GHG排出量(Scope1・2・3の区分別の絶対総量)や内部炭素価格、報酬といった指標が開示事項とされています。

サプライチェーン全体での削減が求められる

世界的に脱炭素への流れが加速する中、自社の直接排出だけでなく、取引先や物流なども含めた企業のサプライチェーン全体におけるGHG排出量(Scope3)の可視化・削減の動きが進んでいます。
自社が他社から購入した部品などの製造時に排出されるGHGや、自社の製品を消費者が使用したときに排出されるGHGなども含むScope3は、サプライチェーンにおけるGHG排出量の大多数を占めていることから、GHG排出算定と報告の世界基準である「GHGプロトコル」でも、非常に重要視されています。
サプライチェーン全体におけるGHG排出量の可視化は、自社内だけでなく広く社会に向け、企業の環境価値をアピールする上で有効です。機関投資家の間でも、サステナビリティへの取り組みに消極的な企業への投資を避ける動きが見られ、今後、脱炭素に向けた取り組みが進んでいないことが企業価値を下げる直接的な要因のひとつにもなり得ることを考えれば、企業におけるサプライチェーン全体での脱炭素化はますます重要性を増していくでしょう。
一方、事業活動における原材料の購入・調達において、品質や価格等に加え、環境問題や労働環境、人権・貧困等の社会問題に配慮する「サステナブル調達」の重要性も高まっています。「サステナブル調達」が重視される大きな理由は、企業が取引先も含めて事業活動における社会的責任を果たすことです。企業にはサプライチェーン全体において、環境や社会に負の影響を与えていないかどうかを把握し、問題があれば適時改善していくことが求められます。

出典:環境省
出典:環境省

サステナビリティ経営の重要性

企業がサステナビリティを意識した経営を行い、自社の利益とともに環境問題や社会問題の解決へ貢献していくことは、持続的な事業活動を行う上で大きなメリットとなります。
サステナビリティ経営を行うことで、消費者や取引先、株主などのステークホルダーからの評価が上がり、直接の売上アップや新たな契約の獲得にもつながります。また、企業イメージの向上は、従業員の企業に対する愛着を深めるエンゲージメントの強化や優秀な人材の獲得にも効果的です。さらに、サステナビリティへの取り組みから新たなアイデアや技術の獲得や、新規パートナーとの協業の実現など、事業拡大の可能性も大いに広がっていくでしょう。
企業は、サステナビリティの重要性を理解し、自社だけでなくサプライチェーン全体での取り組みを強化することで、持続可能な社会の実現に貢献しつつ、自社の持続的な成長も実現することができるのです。

サステナビリティ経営の重要性

サステNAVIコラムへ戻る