サステナビリティ経営のトピックス サステナビリティ経営のトピックス
企業活動による環境や社会への影響がサプライチェーン全体に及ぶなか、世界では「サプライチェーン全体で企業の社会的責任(CSR)を果たすべき」という考え方がスタンダードとなっており、企業の持続可能な成長のための欠かせない要素となりつつあります。今回は、特に中小企業において重要性を増している「CSR調達」への対応について、求められる背景や具体的な実践方法について解説します。

サプライチェーン全体で社会的責任を果たす「CSR調達」

CSR(企業の社会的責任)とは、企業活動において、社会的公正や環境などの配慮を組み込み、従業員、投資家、地域社会などの利害関係者に対して責任ある行動をとるとともに、説明責任を果たしていくことを求める考え方です。このCSRの考え方を〈調達〉に適用したものを「CSR調達」と言います。グローバル・コンタクト・ネットワーク・ジャパンのサプライチェーン分科会が2018年に発行した『CSR調達入門書-サプライチェーンへのCSR浸透(改訂版)』では、CSR調達を次のように定義しています。

「つまりCSR調達とは、"バイヤー(企業)が製品、資材および原料などを調達するにあたり、品質、性能、価格および納期といった従来からの項目に、環境、労働環境、人権などへの対応状況の観点から要求項目を追加することで、サプライチェーン全体で社会的責任を果たそうとする活動"です」
なお、「CSR調達」と混同されやすいもののひとつに「グリーン調達」があります。これは企業が事業や業務を行うにあたり、環境負荷の低い原材料や部品、製品などを優先的に選び、購入する取り組みです。自然環境のみに配慮した「グリーン調達」は、自然だけでなく労働環境や法令順守などを包括的に考慮した「CSR調達」の一部と位置付けられます。

サプライチェーン全体で社会的責任を果たす「CSR調達」

(画像はイメージです)

CSR調達の必要性 ~リスク回避とメリット

世界的に、長時間労働や品質偽装など、コンプライアンスに対する社会の目が厳しくなっています。児童労働、差別、強制労働、生物多様性、動物愛護などに対する消費者意識の高まりから、「不適切」と判断されれば不買運動にまで発展するケースも出てきています。「CSR調達」が重要となる理由のひとつとして「調達先から生じるリスクの回避」が挙げられます。例として、スポーツブランドであるナイキの児童労働問題があります。1997年に、製造を委託していたインドネシアやベトナムの工場での児童労働問題を国際NGOに摘発され、世界的に不買運動が広がりました。また、2021年3月にはアパレル企業のH&Mやナイキが中国・新疆地区の綿花生産で「ウイグル族が強制労働をさせられている」という報道に懸念を示したことで、中国共産党の青年組織から「新疆の綿花を拒否しておきながら中国で稼ぐのか」と非難され、中国国内で不買運動が行われました。
現代は情報の拡散が行われやすく、企業への視線も厳しくなっています。「CSR調達」に取り組むことで、調達のリスクを事前に洗い出し、コンプライアンス、労働、環境、品質・安全性、事業継続管理、社会貢献などにおいて適切な対応をしていない調達先を事前に除くことができます。サプライチェーン全体を把握しておくことで、いわれのない非難や糾弾を受ける可能性を下げることができます。自社のブランド戦略と紐づいた「CSR調達」に取り組むことは、ブランドイメージの構築につながります。社会貢献に積極的な企業であるとアピールすることで、消費者を含めたステークホルダーの信頼を高め、安全な取引先として新たな契約や新規ビジネス創出のチャンスも広がっていくでしょう。

中小企業における「CSR調達」推進のための6つのステップ

近年、主に大手企業のバイヤー(調達を行う側の企業)がサプライヤーに対し、「CSR調達」ガイドラインに対する合意や、契約条件として協力を義務づけるケースが出てきています。一方で、取引先から提示された取引条件に対し迅速かつ適切に対処したことで、信頼度が上がり、新規の受注獲得や取引継続の確保につながるなど、新規ビジネスや事業拡大のチャンスを得たといった事例も出ており、「CSR調達」は大手企業に連なる中堅・中小企業においても重要な要素となっています。
この動きはピンチでありチャンスであると言えますが、中堅・中小企業が「CSR調達」を推進するには、大きく分けて6つのステップを踏む必要があります。

中小企業における「CSR調達」推進のための6つのステップ

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1.現状の把握
具体的な行動を起こす前に、自社の現在地を把握しなければなりません。自社のCSRに対する取り組み状況を可視化する必要があります。リスクを洗い出すことで優先的に対応するべき課題も見えてきます。

2.方針の明確化と周知
次に、CSRに関する方針を明確にした上で、経営層から従業員まで一貫した理解を持ち、社内外に方針を周知することが重要です。方針にはコストや納期などの基本要件だけでなく、人権尊重、多様性、労働環境、自然環境への影響などを含めます。

3.ガバナンスの強化
続いて適切なガバナンス体制を構築し、透明性を高める必要があります。調達部門を中心に、製造技術部門、品質保証部門、国内外の事業所も含めた体制で、リスク管理やコンプライアンスの徹底により信頼性を確保し、大手企業の要請に応える基盤を整えます。

4.環境負荷の低減や労働環境の改善などの具体的なアクション
準備が整ったら、環境負荷低減のための取り組みを強化します。例えば、エネルギー効率の向上、廃棄物の削減、再生可能エネルギーの利用など、具体的なアクションを計画・実施し、開示していく必要があります。また、労働環境の改善を通じて、従業員の満足度と生産性を向上させることも欠かせません。

5.教育とトレーニング
1~4のポイントと並行して、従業員へCSRに関する教育やトレーニングを実施し、意識を向上させることが重要です。最新情勢や規制に対応できるよう、継続的な学習が求められます。

6.コミュニケーションとレポーティング
最後にCSR活動の進捗・成果を既存の取引先や不特定多数の他社へ向けて報告・発信し、外部との透明性のあるコミュニケーションを維持することが欠かせません。これにより、信頼関係を強化し、長期的なパートナーシップを築くことができます。

中長期視点で持続的な成長を続けるために

中長期視点で持続的な成長を続けるために

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「CSR調達」への社会的要請は高まっており、大手企業だけでなく、中堅・中小企業も対応を迫られるケースが増加しています。主に人的資源やコストの面において、取り組みは容易ではありませんが、中長期的に見ればメリットは大きく、企業の持続的な成長の実現に必須の取り組みとなっています。
さらに近年の新しい動きとしては、企業独自によるCSR調査に加え、EcovadisやSedex等といった外部のサプライチェーン評価機関を活用する企業も増えています。これらの評価機関は、企業のサプライチェーン全体のESGやCSRにおけるパフォーマンスを客観的に評価し、企業の取り組みの現状を明らかにしています。うまく活用することで、企業は自社のパフォーマンスをより明確かつ客観的に理解し、改善点を特定することができます。
「CSR調達」への対応には、調達部門や製品開発、品質保証など社内の多種多様な部署や人材を巻き込んで行う必要があります。企業として「なぜ取り組む必要があるのか」、その背景や重要性を社内で共有し、取り組みを推進していくことが大切です。

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