2018年11月に集英社から発売されたデジタル画集「坂本眞一イノサン画集G」(Apple Books限定)。エプソンは、作品の4部構成のひとつである「Partie 1/ Photos」で使用した高精度プリントの制作に携わらせていただきました。このページでは、坂本眞一氏が描き上げた超高精細作品の制作現場をレポートします。
『坂本眞一イノサン画集G』
絵の底、生と死の網目に、深く潜る。18世紀・フランス革命期のパリを「無垢」に生き抜いた兄妹を描く『イノサン』『イノサン Rouge』。その豪奢で壮絶な作品の魅力を広色域・高精細なiPad Proのディスプレイにあわせ、ほぼ全点のカラーイラストレーションを再調整~加筆した、Apple Books限定のデジタル作品です。
「坂本眞一先生は、ペン入れから彩色まですべてをデジタルで行っています。これまで手のひらにのるコミックスの大きさでしか見られたことがなかった絵には、人物の等身大以上に引き伸ばしてはじめて見えてくるレースや刺繍のディテール、髪や肌や瞳の表現が秘められています」と最初に語ったのは、集英社デジタル事業部の岡本正史氏。
今回のプリント作品の制作協力は、岡本氏から「この美しさを多くの人に届けるために、デジタルの作品を作りたい。その中で“オリジナルの細部描写、質感が伝わるプリント作品”を作れないか」とご相談いただいたのが始まりでした。
その後、使用する色域や用紙、サイズについて打ち合わせを重ね、エプソンイメージングギャラリー「epSITE」で画集に使われるプリント作品を制作。
そのプリント作品はスタジオで撮影され、デジタル作品集のフォトパートに収録されました。
今回の作品では、広色域・高精細なiPad Proのディスプレイにあわせ、通常より広い色域Adobe® RGBを基本とした制作が行われました。
エプソンは、そのデータをプリンタードライバーの「Adobe RGBモード(注1)」でプリント。
これにより、坂本眞一先生がイメージする『イノサン』『イノサン Rouge』を最大限再現することが可能となりました。
(注1):Adobe® RGBのカラープロファイルを持つ作品データを出力する際に、プリンタードライバーのカラー設定で 「Adobe RGB」を選ぶことで、Adobe® RGBの広い色領域をフルに引き出した美しいプリントが設定できます。
代表的なカラープロファイルと色域(イメージ)
Adobe® RGBはデザインや印刷業界でよく使われる、広い色域を持った色空間の定義で、一般的なモニターで使われるsRGBに比べ青から緑にかけてより広い色域をカバーしています。
プリンタードライバーのAdobe RGBモード設定
色補正方法を「Adobe RGB」に設定することで、Adobe® RGBのカラープロファイルを持つ作品データの広い色域をフルに引き出すことが可能になります。
イノサンの舞台である18世紀・フランス革命期のパリ。壮麗な景色や麗しき服飾を表現するために、ベルベットのようにきめ細かな面質をもつアートペーパー「Velvet Fine Art Paper」を使用しました。
また、プリンターは水性顔料インクを搭載した高画質プリンター「SureColor SC-P20050シリーズ」を使用しました。
この二つの組み合わせは、一部の美術館の収蔵作品にも対応した実績を持ちます。
デジタルで超高精細に書き込まれた坂本眞一氏の作品。
岡本氏からは「この作品の実際の大きさ」を相対的に体感いただくために、限りなく大きくプリントしたいとのご要望をいただきました。
今回は高精度かつ大判のプリント制作を実現するために、Velvet Fine Art Paperの特注品(注2)を用意し、B0サイズ(1030×1456mm)のプリント作品を制作しました。
(注2):Velvet Fine Art Paperの通常の取り扱いはA4サイズ(210×297mm)からA2サイズ(420×594mm)までとなります。詳しいラインアップはこちらからご確認ください。
デジタルのフォトやアート、グラフィックの再現を極めてきたエプソンの高画質インクジェットプリンターは、作家が思い描くクリエイティブを最大限具現化し、見るものを魅了する力となります。
SureColor
SC-P20050シリーズ
水性顔料インク搭載モデルSureColor SC-P20050シリーズは高画質の9色顔料インク「UltraChrome Proインクテクノロジー」を搭載。
最大64インチ幅の用紙に対応した大判インクジェットプリンターです。
(注):Apple Books、iPad Pro は、Apple Inc.の商標です。
(注):Adobe は、Adobe Systems Incorporatedの登録商標または商標です。
(注)「Japan Color」および「ジャパンカラー」は、一般社団法人日本印刷産業機械工業会および「一般社団法人日本印刷学会」の登録商標です。
今回のクリエイティブに寄せて
集英社 デジタル事業部 岡本 正史
拡大しても拡大しても、新たなディテールが現れてくる…。坂本眞一先生が描く絵のオリジナルデータを見たときの衝撃が、忘れられません。一部の関係者しか目にすることがない、この絵の凄まじさを、どうしたら多くの人に届けられるだろう? リアルな大きさがないデジタルデータを、大画面高画質印刷することで、初めて現れる価値があるのではないか。そうしてエプソンの方々にご相談した結果、編集者だけでなく作家本人も唸る、素晴らしいプリントが現れました。海外の美術館で使われる、コットン素材のマット紙「Velvet Fine Art Paper」。その紙の質感と相まって、肌は柔らかさが感じられるようであり、レースは光をはらんで透けているようであり、背景の黒は深い闇をすくいとって固着させたようでもあります。このプロジェクトは最初から「デジタルオリジナル画集」として始まり、Apple Booksでのみ発売することを決めていました。それでありながら、その第一部で、このプリントを額装してスタジオに置き、撮影を行いました。デジタル(原画)→リアル(プリント)→デジタル(デジタルフォト)→デジタル(電子書籍)への変換。多くの方々にご協力いただく中で、この過程の中から、まったく新しい何かが生まれました。ここからの広がりが、とても楽しみです。
漫画家 坂本 眞一
エプソンさんの高次元な印刷技術に驚嘆。細部のディティールや繊細な色彩まで再現していただき、デジタルから紙へと僕の絵にもう一度、命が吹き込まれたかのようなワンダーな体験でした。
プロフィール
漫画家坂本 眞一
マンガ誌「グランドジャンプ」(集英社刊)で『イノサンRouge』連載中。『孤高の人』第14回文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞。『イノサン』第17回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出、第18回手塚治虫文化賞ノミネート、マンガ大賞2015第7位、『イノサンRouge』が第21回、第22回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出。