01選びたいのはオリジナリティの高い作品
およそ3時間の船旅(撮影行)を終えた一同は、大量に撮影した写真からプリントするための作品選びに入りました。自宅ならパソコンの大きな画面で作業するところですが、今回はカメラ内でセレクトいただきました。
たくさんの写真の中から、真剣なまなざしでプリントするための作品を選び出す
セレクト中にお話をうかがったのですが、面白かったのは、みなさん常に、なにかしら意識し合っているという点。撮影のときは、自分とは異なる「構図」の作り方や、シャッターを切る「タイミング」、「レンズの選び方」などを参考にし、プリント作品を作る段階になると、自分の作風やスタイルを活かしつつ、「ほかの参加者と被らない作品にする」という意思が感じられました。
作品作りに使用するプリンターは、エプソンの最新鋭機種、「SC-PX1V」(以下、「PX1V」)です。顔料タイプ9色独立の「UltraChrome K3Xインク」を採用し、深い青や引き締まった黒など従来モデルを超える表現力を実現しつつ、大幅な小型化を実現したモデルです。色の再現性の高さや扱いやすさから、色にこだわる写真家から信頼を得ている機種でもあります。
そんなプリンターを使っていろいろな用紙が試せるということもあり、それを目当てに参加を決めた方もいるほど人気のプリンターといえます。
「PX1V」が作り出すプリントをじっと眺め、「なんど見てもこの青は凄い」と伊藤さんも絶賛。飛行機写真で重要な青空がイメージする色で出せるプリンターは貴重とのこと
伊藤さんが参加者を集めて熱心に紹介していた「PX1V」の機能が、4.3型の大型タッチパネルです。作業状況などが確認できるだけでなく、表示される写真の「色」や「質感」が参考になるため、プリントする/しないの判断材料になるといいます。
伊藤:「PX1V」はモニターが付いていて、そこに写る写真とプリントされる色がほとんど一緒なんですね。なので、写真を「PX1V」のモニター見て、もし気になったらプリントを中止してデータに戻ればいい。失敗がないから紙もインクも無駄にならない。すごいなと思いました。
「これこれ、『PX1V』はこれがいいんですよ!」と4.3型の大型タッチパネルのよさを力説する伊藤さん。色の確認にも使えるモニターは、お気に入りポイントのひとつという
02「白」も「黒」もしっかり出ている
作品のセレクトが終わると、「PX1V」を使ったプリント制作の開始です。
会場に用意されている「PX1V」は3台。作業に自信のない方はスタッフがプリントを作りますが、やる気のある方や慣れた方は、伊藤さんやスタッフのアドバイスの下、自らの手で作品を作り出していきます。
PX1Vで出力するときは、Epson Print Layoutを使うと画面で見たままのレイアウトで、簡単にきれいにプリントできる
写真のセレクト以上に参加者が頭を悩ませたのが、プリント用紙の選択です。
高光沢でハイスペックな「写真用紙クリスピア<高光沢>」(以下、「クリスピア」)のほかに、スタンダードな光沢紙の「写真用紙<光沢>」、半光沢の「写真用紙<絹目調>」(以下、「絹目調」)、そして、画材紙がベースでコットン100%のマット系のアート用紙「Velvet Fine Art Paper」(以下、「Velvet」)の4種類が用意されていて、好きな用紙を選んでプリントすることができます。
ほとんどの参加者が「使ったことのないプリンター」で、「はじめて使う用紙」もあるわけですから、悩むのも当然かもしれません。
そんな参加者を見て、伊藤さんがたくさんのプリントを作りはじめました。そして、それらをテーブルに並べて、作業中の参加者を集めます。
テーブルに乗っているのは6枚のプリント。2つの画柄が3枚ずつ並んでいます。それぞれの写真に対して、「クリスピア」、「絹目調」、「Velvet」でプリントしたものです。
伊藤:今までは、機械もの(飛行機などのメカニカルな被写体)の写真をプリントするときは、光沢紙が最適だったんです。機械独特の質感を再現する上では。ところが、この3枚のサンプル(「クリスピア」「絹目調」「Velvet」)を見てしまうと、「ああ、全部アリなんだ」と思いましたね。
伊藤さんの解説を聞き、紙ごとの色の見え方や反射による影響を確かめる参加者たち。「写真=光沢紙」という考えが変わったという声も出るほど、伊藤さんの説明には説得力がある
写真用紙クリスピア<高光沢>
写真用紙<絹目調>
Velvet Fine Art Paper
「クリスピア」(左)、「絹目調」(中央)、「Velvet」(右)の紙の色は微妙に異なっているが、伊藤さん曰く、どの紙も「白い色」として認識できて、「白のまま」色(濃淡)が変化していくとのこと(凹凸が見やすい露出で撮影しているため、正確な紙の色ではない点に注意)
プリント用紙の特徴や選び方の解説を終えると、話は「PX1V」の色の特性へと移ります。
伊藤さんが力説したのは、「PX1V」の持ち味でもある「青」と「黒」の再現性、それと、「白」の美しさです。しっかりと撮影した写真なら、これらの要素が「色を調整しなくても再現できる」といいます。
伊藤:この写真は、撮ったままで色をいじっていない。それなのに、「PX1V」から出してみると、どの用紙でも普通にこの青が出でいます。それだけでなく、黒がきちんと黒で出る。これも重要ですね。プリンターによっては黒がしっかりと黒く出ない。「黒い色」を出してほしいのに、半分くらいしか黒が入っていないような、そんな感じを受けるんです。でも、「PX1V」は、黒が黒のまま出ている印象を受けます。
青の再現性に関して語る伊藤さん。空の青だけでなく、色転びがして再現が意外と難しいというANAのコーポレートカラーの青も簡単に出せると紹介
伊藤:それと、白い色が白く出る。プリンターによっては、白という色は意外と白く出ない。プリントでいうと、用紙の色が「白」です。そこから少しずつ、「白のまま濃淡が変化」しているわけです。私は航空会社のカレンダーの写真も撮影していますけど、白に関しては、機体と同じ白じゃないとダメなんです。それが出せる「PX1V」のプリントは、広告のプレゼン用の素材としても使えそうです。
用紙の白から機体の白への濃淡のつながり、そして、そのまま黒や青へ色彩や階調がつながっていく。その変化を、伊藤さんは「色がスーッと流れていく」と表現していました。そして、その色の流れが美しく、「デジタルの不得意さをカバーしている感じ」でもあるのだと。
03作品プリントを見せ合う瞬間
いよいよ、伊藤さんによる講評の時間です。参加者はそれぞれの作品を、好きなプリント用紙を使って5点ずつプリントしています。
写真によって用紙を使い分けるひともいれば、同じ用紙を使い統一感を出しているひともいます。伊藤さんのプリント用紙の解説を聞き、「用紙まで含めて作品」と考え、プリントを制作した参加者もいました。
講評会の様子。「みなさん、この天気でよく仕留められましたよね。なかなかの実力を感じます。曇り、揺れ、風、飛行機が少ない、そんな中で5点ですからね」と伊藤さん
伊藤さんは、参加者からその写真を選んだ理由や撮影したときの話を聞きながら、テーブルに並ぶプリントを確認していきます。このときばかりは、写真歴の長いベテランの参加者も緊張している様子。もちろん、ほかの参加者も興味津々にテーブル上のプリントを鑑賞しています。
みなさんハイレベルな方ばかりだったようで、伊藤さんが感心する場面もチラホラ。船の上からの「スローシャッター流し撮り」や、「ホワイトバランスを電球色にして撮影した写真」、「飛行機の写っていない写真」など、“攻めた”作品も見受けられました。
「伊藤さんから教えを受けるだけでなく、ほかの方の作品が見られたのもプラスになった」と答えるひとがいたほど、作品はバリエーションが豊富でした。6人が5点ずつ作品を持ち寄るのですから、ちょっとした写真展並みのボリュームです。
並べられた作品を1枚ずつ確認する伊藤さん。写真の撮り方だけでなく、プリントの色や作品に合った紙の選び方など、プリント作品を作る上でのポイントもアドバイスしている
「後ろ(尾翼)まで入ってなきゃいけないなんてことはないので、好きに撮ればいいんです」
「自分が撮りたいところだけを撮る。そうすると、より作品性が際立ちます」
「紙との整合性も、よく考えられた作品ですよね」
「アンダー傾向の作品ですね! いいんです、それで。そういうのを作風といいますので」
「飛行機が入っていない写真で空港を表現している。そういうの、好きです」
伊藤さんは次々と、アドバイスしていきます。
そして、伊藤さんが「好きです」と手に取った写真が、D滑走路の桟橋構造になっている部分を切り取った作品でした。撮影者は、「海から撮った」という点を強調したかったため、5点すべてに「海」が写る写真を選んだそうです。その中の1点が、前述の作品です。今回の講評会で登場した30点の写真の中で、唯一、飛行機の写っていない写真でした。
佐々知広さんの作品。参加者6名から提出された作品の中で唯一、飛行機の写っていない写真だが、これも航空にまつわる立派な作品だ
伊藤さんの講評が終わると、それぞれが作品を持ち寄って座談会に。「仕事柄、複数の写真を並べるときは航空会社の比率を考えてしまう」という伊藤さんの話に参加者一同、納得しながら、撮影の話、プリントの話、飛行機の話と、終了時間まで(主に、伊藤さんの)話題は尽きませんでした。
最後は、作品を手に集合写真の撮影です。本日のベストショットを「お気に入りのプリント用紙」でA3ノビにプリントしました。影開始前は不安な表情を浮かべていたみなさんも、手ごたえのあるプリントが作れてホッとしたようです。
集合写真撮影の準備が整うまで、写真を持ち寄ってちょっとした座談会が繰り広げられた