写真家・金森玲奈さん × 川野恭子さんに聞く
作品プリントの魅力+魅せ方
猫や日常のスナップを作品テーマにする金森玲奈さん、山岳や日常を作品テーマにする川野恭子さんをお招きして、作品をプリントしながら、プリントのこだわりや作品について対談していただいきました。制作に使用したプリンターは、A3ノビサイズのプリントに対応するプロ・ハイアマチュア向けのインクジェットプリンター「SC-PX1V」です。(TEXT:加藤マキ子)
金森玲奈(かなもりれいな)
1979年東京都生まれ。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。日常の中で出会った残したい瞬間や怪我と障害がきっかけで引き取った二匹の猫との日々を撮り続けている。池尻大橋のアトリエでプリントや額装のワークショップを不定期で開催中。
川野恭子(かわのきょうこ)
アトリエ「日々と写真」主宰。京都造形芸術大学(現 京都芸術大学)通信教育部美術科写真コース卒業。横浜・山下町を拠点とし、「日々が写真を紡ぎ、写真が日々を紡ぐ」をテーマに写真の楽しみかたを提案。並行して、山を媒体に自らの内面と向き合う作品を撮り続けている。写真講師のほか、雑誌や書籍での撮影・執筆、トークイベント、テレビ出演など、多岐に渡り活動。
01省スペースに置けることに価値がある
お二人の作品を出力するプリンターは、エプソンの「SC-PX1V」(以下、「PX1V」)。「PX1V」は、A3ノビサイズのプリントに対応するプロ・ハイアマチュア向けのインクジェットプリンター。顔料タイプ9色独立の「UltraChrome K3Xインク」を採用し、深い青や引き締まった黒など従来モデルを超える表現力を実現しつつ、大幅な小型化を実現したモデルです。
エプソンのプロ・ハイアマ向けプリンター「SC-PX1V」。既存モデルから画質の向上と大幅な小型化を実現。扱いやすさにも磨きがかかった
事前に「PX1V」の特徴をお伝えし、「青」が印象的な作品、白と黒の階調が感じられるモノクロ作品を用意していただき、「PX1V」の性能やそれぞれの作品について語り合っていただきました。
作品をプリントしている間に教えてください。複数のプリンターを所有し、プリンターに造詣が深いお二人から見て、「PX1V」の第一印象と、「PX1V」を導入するならご自宅とアトリエのどちらに置きたいですか?
金森玲奈(以下、金森):私は自宅ですね。自宅でもアトリエでも、ある程度のクオリティのプリントができる状態を整えていたいと考えています。去年、緊急事態宣言が出た当初は、アトリエに行くのも躊躇してしまって。そうするとすべて完結できる環境を家に作っておくことは大切だと、改めて感じました。
「PX-1V」はA3ノビ対応プリンターなのに、すごく小さいので置き場を選ばず、自宅のどこにでも置けそうなのがすごく魅力的です。ピアノブラック仕上げで高級感があり、直線的なデザインもスタイリッシュでカッコいいですよね。
川野恭子(以下、川野):家に置くならデザインは大切ですよね。私はアトリエを教室として使っていて、自分の作品制作は自宅でやっています。普段はA3ノビ対応のエプソン「SC-PX5VII」と、染料インクジェットプリンターを木製のラックに2台並べて置いています。
「PX1V」はボディが小さく、さらに背面トレイの角度が急なので、奥行きを取らず余裕を持ってラックに置けそうですね。給紙・排紙トレイが格子状なのも、今までにないデザインでこだわりを感じます。
金森:確かに! A3ノビプリンターは大きいので、背面給紙の時にちょっとだけ、前にずらすのはアルアルですね(笑) それにしても「PX1V」はA3ノビをプリントしていても、とても静かで安定感がありますね。我が家のプリンターは、かなり揺れて、作動音も気になっています。
川野:本当に静かですね。プリンターは置く場所を選ぶので、振動がないのはうれしいです。あと、液晶ディスプレイも大きくて、本体の操作をここで完結できるのは良いと思います。印刷レイアウトが表示されるのも良い点です。写真を撮ることが好きだけど機械が苦手な方にはうれしいかもしれません。
「PX1V」の特徴のひとつとして、内部が光ることでプリントしている様子を見ることができます。
川野:(出力を見てて)「きちんと出ているな」と確認ができて安心できますね。
金森:それに静かなのに出力がすごく速いですね。自分のプリンター(エプソンPX-5600)と全然違う(笑)
02初期設定でイメージ通りに出力できる
「作品の色」はどのような流れで完成するのでしょうか。撮影のカメラ側の設定の段階で、最終的な色のイメージを作り込みますか? それとも現像時に作り込むのでしょうか?
金森:私の作品は日常的なスナップが多いのです。撮ることに夢中で、色を調整するなどの余裕はありません。とにかく撮ることに集中したいので、設定は基本的にオート、RAWで撮って後で調整します。
ただし、露出に関してはすごくシビアに決めています。プリントをする現像のタイミングで、自分の求める階調ですとか、色味を作って若干の色調整をします。それをプリントして、でき上がったプリントを見て、また微調整をして追い込んでいく。その作業を繰り返して、作品を最終段階に落とし込みます。私はフィルムから写真をはじめた人間なので、暗室でプリントしていくようなプロセスで作品を仕上げているような気がします。
川野:そうなんですね。そういう意味では私は金森さんとは逆で、撮る段階でできるだけ最終的な作品のイメージに落とし込む設定にして撮影するタイプなんです。だけど、カメラ側で色を設定するにも限界があるので、撮影後に一度Adobe® Lightroom® Classic CCで色を調整して現像し、さらにプリントする時にAdobe® Photoshop CC®に移して「Epson Print Layout」を立ち上げてから出力しています。
それぞれ1枚目の出力が終わったようです。いかがでしょうか?
二人:おおぉ!
金森:色がすごく鮮やかですね。
川野:パソコンで現像した色が、そのまま出たって感じがします。
今回はプリンタードライバーの初期設定のままで出力しました。
金森:本当ですか!? メチャクチャきれいですね。見せたかった色がイメージ通りです。トンネルに反射した海の青色がきちんと出るかな? 手前側のギリギリまで落としたトンネルの黒の階調が出るかな? と、ドキドキしていたのですが、モニターで見ても潰れていそうな暗部の階調や質感が、しっかり再現されていることにビックリしました。
撮影:金森玲奈 SC-PX1V / Velvet Fine Art Paper
川野:マット系のアート紙(Velvet Fine Art Paper)の質感で、これだけ高精細で発色もきれいに出るってすごいですね。(暗部をさして)出力する前はこの辺がきちんと再現されるか、ちょっと気になっていました。特に岩の影のデコボコ感がうまく出るといいなと。でも、結構細かく階調や質感が出てますね。触ったらゴツゴツしてそうな印象。前ボケと用紙の質感が干渉することもなくてきれいですね。明るい雲のグラデーションの階調もきれいにでています。
撮影:川野恭子 SC-PX1V / Velvet Fine Art Paper
プリンタードライバーの設定は、普段どのようにしていますか?
川野:プリンタードライバーにおまかせではなくて、自分で用紙に合わせてプロファイルを適用しています。
金森:私も恭子さんと同じように、プロファイルを適用しています。
川野:初期設定のプリンタードライバーでも、自分の作品がイメージ通りに出力されるのは簡単でいいですね。私のアトリエの生徒さんは、撮った作品イメージとプリントした色が合わないと悩んでいる方がすごく多くいるんです。
03金森玲奈・川野恭子、それぞれの青
「PX1V」の特徴のひとつでもある「ディープブルー」インクの美しさ。お二人が写した金森さんの海の青、川野さんが写した山の青についてもうかがいました。
出力した作品は、どちらも青がとても印象的な作品ですね。作品の想いを教えてください。
川野:金森さんの作品の海の色は、とても透明感があります。それとは逆に、モノクロかな? と思うくらい、手前のトンネル部分は白と黒の階調で表現されていて。この対比がすごく印象的ですね。
金森:私はどちらかというと、特定の色にこだわりがありません。できるだけ「自分の目で見た印象に近い色で表現したい」という想いがあります。プリントしてみて、自分のイメージと、その写真の中の色のイメージと、ちょっと違うかもと思った時だけ、微調整していきます。
川野:イメージした色をプリントに落とし込むのに、どの程度調整していますか?
金森:写真によりますけど、基本はあまり色はいじりません。色についてはよほど撮った段階で違和感が拭えない時だけ部分的に変えます。
この海の写真は私には珍しく、色を調整した作品です。撮影時がすごく曇っていた日で、海の青さが無かったんです。でもこの黒い写真の世界の中にある海なら、ちょっと大袈裟なくらい青い海でいてほしかった。ですので、モノクロに近い世界の中で、一番存在感を出したいと海の水色にはこだわって調整しました。すごく繊細な色調整だったので、明るい海の部分の青のグラデーションとか、波の白い部分の階調とか、砂浜のディテールとか出るか心配だったのですが、高精細に描写されていて大満足です。
川野:海の青さもそうですが、トンネルに反射された海の青の階調も出ていて、すごくリアルですね。普通のプリンターなら、このトンネルの暗部は黒く潰れてしまうのに、絶妙な光の反射の表現や、うっすら見えるトンネルのパースや質感の再現性がすごい。薄暗いトンネルから、明るい海を見ているという臨場感がすごく伝わります。
金森:撮った本人が、手前のトンネルのディテールがここまで残っていたんだ! と、一番驚いています。潰れていると思ってました(笑)。特に手前のトンネルは、ほぼ階調が失われているものと割り切っていました。海の青さを出すために、シャドウを上げつつ締めたりしていたので。潰れてもしょうがないかなと思っていた階調が、こんなにくっきりと出て、しかも壁と地面の色や素材の質感の違いが表現されていて。これには本当に感動です。
金森:川野さんの作品にも青がありますね。この山の青空は、吸い込まれそうな澄んだ深い青です。ここはどこで撮られたのですか?
川野:北アルプスの雲ノ平です。クルクルした綿毛のチングルマ(手前の前ボケの植物)でも有名ですね。
金森:川野さんは、どのような視点で山の撮影をしているんですか?
川野:いわゆる「ザ・山岳写真」ではなく、「自分がどう山を見ているか」という主観を見せたいと考えています。山だけど、この世の景色ではないみたいな(笑)。山の上の空って、地上の空とは違ってすごく青が深い。標高が上がると、それだけ空気の層も薄くなってくるので、光の散乱が少なくなり、天気のいい日はとくにグッと青くなります。
川野さんは山写真の「青」について、どのようなこだわりがありますか?
川野:山の写真では、濃いめの色を意識しています。「色が濃い」とは、「鮮やか」ということではなく、「コクのある仕上がり」という意味です。特に濃い青空は深い青から柔らかい浅い青までうまく出てくれるか、とても楽しみで気になっていました。
「PX1V」で出力したプリントを見ると、抜けるような深い青空と雲がかかった軟らかい青空がうまく出て、標高が高い世界の雰囲気がきちんと感じられて満足しています。描写の繊細さ、特にマット紙でプリントした時にここまでの繊細さが感じられるとは驚きです。青も含め、緑や赤、黄色など色もすごくきれいだし、雲の階調も豊かですね。
04インク性能で引き出されるモノクロ表現
「PX1Vのグレーインクは2種類。「グレー」と「ライトグレー」が搭載されています。白から黒の階調で表現されるモノクロ作品もプリントしてみて、その仕上がりをうかがいました。
川野:金森さんは普段、モノクロで写真を撮りますか?
金森:最近は、あまりないんですが、以前はモノクロばかり撮っていました。
川野:そうなんですね。私はほとんど撮らなくて。だから、今回のモノクロ作品はカラーで撮影したものを、モノクロに現像しなおしたものなんです。金森さんが出力したこちらのプリントはモノクロで撮った写真ですか?
金森:銀塩のバライタにプリントした作品をデジタルで複写したデータです。
撮影:金森玲奈 SC-PX1 / Velvet Fine Art Paper
川野:そうなんですね! バライタにモノクロプリントしたものと、「PX1V」で出力したプリントを見て、印象に違いはありますか?
金森:この耳の毛のギリギリのところがちゃんと出ているのが、すごい再現性だなと思いました。逆にハイライトトーンでまとめた、こちらの桜の作品もギリギリの白い桜の花びらが細かく再現されていて。
私は自分のイメージで白い世界を作りたいと思ったときは、白飛びはしてしまっていいと考えています。だから、用紙の地色の白が重要だと考えています。私は真っ白より、柔らかく温かみのある紙色を選ぶことが多いですね。ご自分のモノクロ作品を「PX1V」でプリントしてみていかがでしたか?
撮影:金森玲奈 SC-PX1V / 写真用紙<絹目調>
川野:モノクロ作品をプリントで表現する場合、白から黒の階調や黒の締りはもちろん大事なのですが、物質感が感じられるテクスチャーとか、デザイン的な造形美を撮った写真が面白そうだなと思って、今回の作品をセレクトしました。花びらの柔らかさとか、木のゴツゴツした感じとか。特に質感のあるアート紙にプリントすることで、物質的なリアリティが伝えられます。「PX1V」の高精細なプリントだと、そのあたりがしっかり伝えられていいですね。
撮影:川野恭子 SC-PX1V / Velvet Fine Art Paper
撮影:川野恭子 SC-PX1V / 写真用紙<絹目調>
05まとめ:プロ・ハイアマ向けプリンターだから表現できること
今回は、「写真用紙クリスピア<高光沢>」、「写真用紙<絹目調>」、「Velvet Fine Art Paper」の3種類を用意しました。用紙選びで意識していること、こだわりを教えてください。
川野:用紙を選べることこそ、自宅でプリントするだいご味です。個人的にはアート紙と呼ばれる用紙を選ぶことが多いです。
金森:私も作品は、用紙そのものの質感というか、持ったときの手触りを大切にしています。いろいろな用紙を試していくと、同じ光沢紙やマット紙でもいろいろなパターンがあり、さわり心地や用紙の地の色が違います。だから、用紙選びを重視しています。
今回、「PX1V」を使って、アート紙が背面トレイから給紙できるところがすごく魅力的に感じました。普通のインクジェットプリンターだと、1枚ずつ手差しでセットしないといけなくて、すごく手間がかかるんです。
川野:私もすごい大きな進化だと思いました!
A3ノビ対応プリンターはA4までしかプリントできないプリンターより、上級者向けという印象があります。作品をプリントするにあたり、A3ノビ対応プリンターは必要でしょうか?
金森:もちろん、A4プリンターでも作品はプリントできます。ただ、A3ノビ対応の方が、作品の見せ方の選択肢を広げるという意味ですごくいいと思います。単に作品を大きくプリントするだけではなく、A3ノビまであれば余白を多めにとれるので、額装したい時も対応しやすいです。
川野:写真展会場の広い空間に写真を壁に飾って見ると、やはりA4は小さく感じます(一同、うなずく)。しかも、余白を付けると余計に。皆さんが想像する展示は、作品1枚と対峙する見せ方になるでしょう。作品の大きさはとても重要なポイントになると思います。展示目線で考えると、A3ノビまであった方がいいとは思いますね。
金森:意外とA3とA3ノビって違いますよね。「ノビ」のちょっとの部分なんだけど、プリントしてみたときの余白が変わる気がします。
お二人は余白の大きさをどのように決めていますか。
金森:作品ごとに余白の広さは変えます。ただし決まりはなく、自分のフィーリングで決めています。
川野:私は、すごくダイナミックに見せたい時は余白を狭めたり。逆に自分とはまた違う世界を見ているような世界で見せたいとか、窓越しに見ているような感覚に見せたい時に、余白を大きく取ったりしています。プリントで余白の調整する時に、エプソンの「Epson Print Layout」というソフトを使うと、すごく簡単に微調整ができるのでオススメです。
大きくプリントできる上に画質も良いわけですし、作品プリントに興味持つ方にはぜひチャレンジして欲しいですね。
金森:よくプリンターの選び方について聞かれるのですが、プロ・ハイアマ向けプリンターの方が細かな調整なしでキレイに仕上がるので、エントリーモデルよりオススメかもしれません。簡単に思い通りのイメージで出力できると、普段プリントをしない人にとってはハードルが下がる分、「プリントをやりたい」という気持ちが続くのではないでしょうか。
川野:自分のイメージを思い通りに出せないことで、プリンターに苦手意識持っている方は多いです。せっかくプリンターを買うなら、たくさん使いたくなるモデルを買った方が、長い目で見たら得ですね。
- (注)本媒体上の他者商標の帰属先は、商標についてをご確認ください。