01ストレートプリントで仕上がりを
イメージする
プリント作品を制作する時に、まず最初に行うとよい作業は何ですか?
小島:どのような作品に仕上げるかを考える有効な手段として、まずはストレートな状態のプリントを用意するのがよいでしょう。モニターで表示している段階で仕上がりがイメージできる方は不要な作業に思うかもしれませんが、実際にプリントしてみるとモニターでは気付かなかった発見が得られます。
ストレートプリントは、どの用紙にするかを比較検討したり、どの程度のレタッチが必要か判断するのに役立ちます。他には、写真展を計画しているのであれば展示する順番を考えたりもできますし、写真集であればページの構成を検討するのにも活用できます。
今回は「部屋に飾って楽しむ」ということを目的にお気に入りの写真をプリント制作する、という前提で、作例とワークフローをご紹介する。
まずはストレートプリントでモニターとの違いを把握し、用紙選びやレタッチの方向性について検討していこう。
【ストレートプリント作成のポイント】
・画像データはレタッチを行なっていないものを用意。
・用紙は紙の白や光沢感のバランスが良い写真用紙<絹目調>がおすすめ。
・用紙サイズは、紙の面質や画像の階調をきちんと確認できる「A4サイズ」がおすすめ。
・キャリブレーションモニターできちんと調整されている場合、プリント設定はICCプロファイルを選択するのが有効。
(注)プリント設定については、「モニターとプリントの色合わせ カラーマッチングのための4つのポイント」のページで詳しく解説しています。
023つのポイントで
用紙を選ぶ
用紙は、どのような基準で選ぶのとよいのでしょうか?
小島:現在、純正用紙だけでなく、他社製品もたくさんの種類がありますよね。そこから作品に合うものを選び出すのは容易なことではありません。まずは、3つのポイントを基準に選んでみるとよいでしょう。
用紙選びの3つのポイント
(1)紙白
紙白は作品の色味を決める要素で、私が一番意識しているポイントです。ハイライトから中間調までは紙白の影響を大きく受けますので、イメージを再現できる用紙を選ぶことが大切になります。例えば、青空の冷たい空気感や抜けを表現したいとき、ウォーム系の紙白では、なかなか狙った表現は出しにくくなります。
(2)光沢感
光沢感は透明感や華やかさ、写真の輝きを印象付けることができます。いつも光沢系しか使ったことがないという方は、逆に半光沢や微光沢、マット系にチャレンジしてみることをおすすめします。今までにない写真の表現が得られ、より写真を撮りたくなると思います。
(3)テクスチャー
写真の味わいを醸し出す要素です。例えば、平滑なものであれば緊張感などが伝わってきます。逆にテクスチャーがあればノスタルジックさや、絵画的な味わいで表現することができます。
縦軸は色味や光沢感の強さ、横軸はテクスチャーの大小を表している。このようなマトリクスを参考に仕上がりをイメージすると選びやすい。
作例では、街灯に照らされた建物の壁やベンチの質感を大切にしたかったのと、部屋の灯りがノスタルジックなイメージだったので、大きめなテクスチャーで光沢感の低い「ハーネミューレ・トーション」という用紙を選んだ。
私自身は様々な種類の用紙を扱っており、エックスライト社のキャリブレーションセンサー「i1 Pro2シリーズ」で測定したデータから、紙の性質を把握しています。
しかし実際にプリントしてみなければ詳しくはわからないというのが実情で、たくさんの用紙にプリントして、自分の経験値を積み上げていく地道な作業が必要となります。
皆さんの場合は、サンプルになる画像や好きな写真(できれば様々な色や質感を持った被写体が写っているもの)を2〜3点決め、気になった用紙にプリントして紙白/面質/色/濃度などを確認し、用紙の傾向や自分の好みを掴んでおくと良いと思います。
03レタッチの計画を
立てる
読者の方々が自身でレタッチする際は、何に気をつけたらよいのでしょうか?
小島:作品づくりの本質は「伝えたいことや見せたいこと」といった「目的」を明らかにしていく作業です。その目的に合わせ作品のどこに視点を誘導するかを考えてレタッチを行います。
もちろん撮影したままのもの(ストレートプリントの状態)でも自分のイメージに近ければ、それで良いのです。決して「レタッチありき」で作品づくりするものではないことを理解しておきましょう。
目的を見失わないためには、ストレートプリントを見ながら調整したい部分を赤いペンなどで囲み、どのように仕上げたいかを余白に書き込んでおくとよいでしょう。そうすれば闇雲にレタッチして失敗することも防げます。傾きやゴミの除去なども書き込んでおけば作業漏れを防ぐことができます。
今回の作例は作品を「部屋で長く鑑賞する」という目的なので、彩度を落とし落ち着いた色合いにするという計画を立てた。撮影時の印象はストレートプリントに近い雰囲気だったが、鑑賞するには彩度が高すぎると感じ、好きな映画のワンシーンに出てくるような色づくりを目指した。
04レタッチの実践
(全体→細部の調整)
実際にレタッチする手順を教えてください。
小島:レタッチは画像全体から細部の調整・修正へという流れが基本の考え方です。
[レタッチの手順]
<画像全体の仕上げ>
(1) 傾きの修正やトリミング
(2) 明るさやコントラストの調整
(3) 色合い、明瞭度、彩度などの調整
<細部の調整や修正>
(4)ゴミや汚れ、不要物の除去
(5)部分調整
(1)〜(3)が全体のベースとなりますが、この段階で80%くらい作り込みます。
使用するモニターはEIZO社の ColorEdgeシリーズなど、キャリブレーションモニターを使うことをおすすめします。
全体の調整が済んだら、テストプリントをしてみるのが良いでしょう。仕上がりサイズでテストプリントしてもいいのですが、高価なファインアート紙では費用がそれなりに掛かってしまいます。そこで仕上がりの実寸サイズ(ここではA2)に合わせて画像の主要な部分を切り出し、A4サイズの用紙でテストプリントするのがおすすめです。
シャドウ部分を切り出してテストプリントし、階調を確認する。
RAW現像ソフトなどで明るさや色といった全体の調整を行った後、画像編集ソフトで(4)ゴミや汚れ・不要物の除去、(5)部分補正、といった細部の調整や修正作業を必要に応じて行います。
このとき用いる画像編集ソフトは、画像の劣化を抑えつつ、後から何回でも調整し直せる「レイヤー機能」搭載のもの(Adobe® Photoshop® など)が便利です。
画像に写り込んだ大きなものを消す場合や、部分的な明るさや色調を調整する場合などは、レイヤーやブラシツール、マスクツールなどを用いて行います。ただし、その場合も最小限の作業に留めておきましょう。
人間の視点は、明るい部分に引っ張られるため、小さな反射も目立って視点が定まらなくなる。そこで、右下にある街灯の反射を修復ブラシで消した。ちょっとした作業だが、最後の仕上げでしっかりと主題に目線がいくようになった。
左が完成データ、右が実際のプリント。当初の計画通りの作品に仕上がった。
レタッチは、その写真をどう見せたいかを鮮鋭にしていく作業です。レタッチでいくらでも作り込むことができますが、一方で画像を壊してしまうこともあると理解しておいてください。
最近の風潮で、レタッチで作りすぎてしまった作品を目にすることも多くあります。また、プロが行うレタッチというと、レイヤーをいくつも作って複雑に作業していると思われがちです。そういった仕事があるのも事実ですが、実際はいかに目的にあわせて、最小限の工数で仕上げられるかを考え作業をしています。
皆さんがレタッチのスキルを身につけるには、他の作品をたくさん観て自分ならこうするということを想像し、それに近づくためにはどの機能を使えばいいかイメージトレーニングすることをおすすめします。
私は写真だけでなく、イラストなど様々な作品のレタッチを30年以上続けていますが、他のやり方はないか、もっと品質良く素早くできないかと常に考えています。写真を撮ることと同じようにレタッチも奥が深く楽しみを感じながらできるのです。
【プリント解体新書】
2019年8月30日から9月24日にかけて、小島さんにも協力いただいた企画展「プリント解体新書 レタッチ&インクジェットメディアの世界」がエプサイトギャラリーで開催されました。
使用する用紙やレタッチ次第で写真がどのように魅力的になっていくのかを、実際のプリント作品と解説でご紹介しました。
- (注)本媒体上の他者商標の帰属先は、商標についてをご確認ください。