物語を求めて世界を旅する写真家・コムロミホさん、モノクロスナップをメインに企業との仕事も多い写真家・大門美奈さん。おふたりは旧知の仲ということもあり、対談冒頭からさまざまな用紙の話題で盛り上がりました。そしてお話は用紙の個性を引き出す「SC-PX1V」(以下、「PX1V」)「SC-PX1VL」(以下、「PX1VL」)の魅力へと。コムロさんはA2ノビ対応の「PX1VL」のユーザー、大門さんはA3ノビ対応の「PX1V」を購入したとのことで、それぞれたくさんのプリントをしていただきました。(TEXT:吉田浩章)
大門美奈(だいもんみな)
アートスクールにてデッサン、水彩画、彫像、写真、色彩学など美術全般に関する基礎を学ぶ。リコーフォトギャラリーRING CUBE での公募展をきっかけに2011年より写真家として活動をはじめる。第1回キヤノンフォトグラファーズセッションファイナリスト。無印良品やファッションブランドとのコラボレーションなども行う。International Photography Awards 2017および2019・2020にてHonorable Mentionに選出。
https://www.minadaimon.com/
01紙の個性を引き出してくれる「PX1V」
おふたりとも普段からプリンターを使っており、写真展用の作品制作などを行っています。そして、表現の可能性を求めてさまざまな用紙にも興味が尽きません。今回はそれぞれが気になった数種類の用紙を選んでもらい、ご自身の写真をプリントして対談会場にお持ちいただきました。お互いの作品を見せ合いながらの対談スタートです。
独特の光沢やキメが特徴のバライタ系の用紙や光沢のない落ち着いた雰囲気のマット系の用紙など、いろいろな用紙でプリントしていただきました。まずはズバリ、「PX1V」でのプリントの感想をお聞かせください。
大門美奈(以下、大門):私はバライタ系が好きなので、今回はハーネミューレの「ファインアート バライタ」とイルフォードの「ゴールドファイバーラグ」を使ってみました。紙そのものの特徴として、「ファインアート バライタ」は面質が粗めで紙色は相当に白いです。対して「ゴールドファイバーラグ」はマット調に近い雰囲気があります。
コムロミホ(以下、コムロ):私はバライタ系だとシールの「サテンバライタペーパー290」を使いました。この紙は厚みがあってしっかりしています。面質はメタリックな感じがしてバライタにしてはきめ細やか。いい紙ですよ。
大門:私はハーネミューレの「ファインアート バライタ」が気に入っています。荒々しさを表現したいときや、質感を伝えたい写真に向いています。この中では銀塩写真のバライタに最も近いんじゃないかな。とっても紙質が硬いんです。
コムロ:(実際に触ってみて)硬い!!!
大門:めちゃくちゃ硬いんですよ。だからプリントで詰まりやすい紙なのですが、「PX1V」ではまったく問題なくプリントできました。好きな用紙をストレスなく使えるのはやはり嬉しいです。
持ち寄った作品を前に紙について冒頭から熱く語り合うコムロさんと大門さん。次々に新しい用紙の表現に魅了される様子は「レンズ沼」ならぬ「用紙沼」といった様子(笑)
コムロ:シールの「サテンバライタペーパー290」は、黒の締まりもありつつ、きちんと階調も出て、さらに光り方も独特です。「PX1V」だと従来機以上に暗部の階調がより豊かに感じます。これはベトナムで撮った写真ですが、独特の肌の質とか肌のテリが出て面白いです。おじいさんのピカピカっていう肌の質感と用紙がマッチするのでは? と思って選びました。
大門:確かにこの写真とこのバライタは合っている気がします。深い黒の濃度が特徴の「PX1V」ならではの表現でしょうね。
「PX1V」でシールの「サテンバライタペーパー290」にプリント。締まった黒から続く豊かな階調や被写体の質感の優れた再現性など、紙の特性を「PX1V」が引き出している
コムロ:私はマット紙も好きです。今回はハーネミューレの「フォトラグ サテン」とキャンソンの「インフィニティ エディション・エッチング・ラグ」(以下、エッチングラグ)をチョイスしました。「フォトラグ サテン」ってプリント面が光るんです。対して「エッチングラグ」はインクがすーっと染みこんでプリント面はマットのまま。ツヤ感のある被写体の場合は「フォトラグ サテン」、しっとりと落ち着かせたい場合は「エッチングラグ」というように、「PX1V」を使うと紙の性質もそれぞれ際立ってくるので、使い分けるのが楽しくなります。さらに、テクスチャも「フォトラグ サテン」はやわらかいんですが、「エッチングラグ」は“エッチング”というだけあってちょっと立っている感じ。プリントだとそうしたテクスチャの違いを味わえるのも楽しみのひとつですよね。
大門:私、マット紙ってあまり使ったことがなかったのですが、こうした作品を見ると新鮮に感じます。「PX1V」ならマット紙の可能性も広げてくれそうな気がしますね。
いろいろな用紙がありますが、どんなふうに使い分けているのでしょうか。
コムロ:マット系が好きですが、例えば1枚の写真を見せたいときはその写真にあった用紙を選びます。写真展を開く際は、写真展のテーマに合った用紙を選ぶようにしています。
大門:私はやはりバライタ系が好みではあるのですが、ポートフォリオにするのか、自宅に飾るのか、写真展で飾るのかなど、目的によって用紙を選んでいます。
コムロミホさんは発売直後からの「PX1VL」ユーザー
「PX5VII」ユーザーの大門美奈さんは「PX1V」を最近購入
02期待を超えるモノクロの表現力
モノクロ写真の作品も多いコムロさんと大門さん。それぞれに求める表現があり、調子や調色などの微妙な差にもこだわっています。「PX1V」でプリントしたモノクロ写真は、予想以上にふたりを納得させるものでした。
モノクロ作品も多いおふたりですが、モノクロはどのような設定でプリントするのですか?
写真作品を飾ってよく見ているという大門さんのご自宅。ソリッドなデザインの「PX1V」はインテリアにもマッチする
コムロ:以前はAdobe® Photoshop®のドライバを使用してプリントしていましたが、今は「Epson Print Layout」を使用しています。「Epson Print Layout」のメリットはプレビュー画面が大きいこと。それに項目がシンプルで操作がしやすいのもいいですね。モノクロ写真は「Epson Print Layout」で細かな設定ができるので、レタッチが難しいと感じている人も「Epson Print Layout」を使うと理想のプリントに近づけることができると思います。
そして、余白の設定が直感的なんですよね。画像サイズを指定して余白を決める方法と余白自体の長さを指定して決定する方法の2種類があります。額装するときは額やマットのサイズに合わせて画像サイズを細かく指定できるので便利なんです。そして、ハイライト部分が多いモノクロをプリントするときは[白地にかぶり効果を与える]という機能も使います。
コムロミホさんはアトリエにある「PX1VL」でプリント作品を制作している
大門:私はAdobe® Photoshop® Lightroom® Classicでプリントしています。モノクロに関しては、プリンタードライバのモノクロモードを使い[純黒調]の[やや硬調]を選んでから、X軸(水平移動)やY軸(垂直移動)を調整して、やや[温黒調]寄りにしています。
コムロさんがよく使っている「Epson Print Layout」。プレビューが大きく、設定した色や調子なども反映されるのでイメージ通りのプリントを得やすいとのこと。ハイライト飛びを目立たなくできる[白地にかぶり効果を与える]といった機能や、プリントする画像のサイズや位置を額の窓のサイズや位置に合わせることができる[画像サイズと余白]という機能が用意されている
コムロ:私も[純黒調]で[やや硬調]を選んでいます。使っていて感じたんですが、プリンターのドライバでもモノクロの調子を整えられるのはいいですよね。そして、細かく設定できるのが嬉しいです。これを使わない手はないと思います。
大門:そう! 私も感じました。特に「PX1V」は、[硬調]や[やや硬調]といった[調子]のメニューの違いが顕著に出て、写真の雰囲気を変えるときは便利だと思います。
実際に「PX1V」でモノクロ写真をプリントしてみていかがでしたか。
大門:「PX1V」でカラー写真をプリントしたときはシャープな印象を持ったのですが、モノクロの場合は意外にソフトに出て驚きました。しかし、やわらかいながらもしっかりコントラストや調子もあって、さらに黒も締まっている、というのが「PX1V」でモノクロをプリントした印象です。今まで以上の濃淡の表現力に驚きました。旧機種と比べてどちらが好きかと言われれば、やはり「PX1V」で出したプリントのほうが好きですね。
コムロ:私も「PX1V」のモノクロ表現は「別格」だと思います。以前のプリンターを使っていたときはこれで完成形だと思っていたんですが、「PX1V」が出てそのプリントを見ると、プリンターが違うだけで仕上がりもこれだけ違うんだ!って驚きました。写真って最終的に見せるのはプリントですよね。データを作り込んでもプリンターが異なるとこれだけ表現が変わるというのであれば、プリンター選びも大事だなって改めて思います。
用紙の違いで変わる写真の印象を確認するふたり。バライタが好きという大門さんだが、エプソンの「Velvet Fine Art Paper」でのプリントも「落ち着きがあって、いいですね」とのこと
大門さんのモノクロ写真を「PX1V」でハーネミューレの「ファインアート バライタ」にプリント。「いい意味でソフトな印象なんですが、解像感も高くコントラストもあって、被写体の魅力が引き立つように感じました」と高評価
03色の濁りのないクリアなカラープリント
ディープブルーが加わった「UltraChrome K3Xインク」という新しいインクでカラー表現にも期待が高まる「PX1V」。実際にプリントをしたふたりからは、「色の濁りのないクリアな色が気持ちいい」「色の変化を絶妙なグラデーションで描ていることが美しい」との声。カラープリントにも秀でた「PX1V」の性能に驚くふたりでした。
カラーの作品もお持ちいただいています。実際にプリントを見ていかがでしょうか。
大門:正直に言って大きく違わないかなって思ったんですが、黄色みが強く出た「SC-PX5VII」に比べると「PX1V」のほうが濁りが少なくクリアで気持ちよく感じます。モニターと比べてみても「PX1V」のプリントの方が近いですね。いずれも純正のプロファイルを使ってプリントしているんですが、こんなに違いが出るなんて予想外でした。淡い緑や青ってプリントすると色が出すぎたり、逆に出なさすぎたりして表現しにくいことが多いのですが、巧みに表現されています。
コムロ:「PX1V」は、ディープブルーインクが追加された「UltraChrome K3Xインク」という新しいインクですよね。大門さんのこの作品のような、青みのある被写体の表現力が増すというのは、新しいインクの良さなんでしょうね。この淡いトーンやハイライトのあたり、「PX1V」のプリントは濁りがなくて品があってステキです。自宅に置けるプリンターでここまで追い込めるってスゴいです。
コムロ:私が持ってきたカラーの作品は、ひとつはカンボジアで撮影した市場の写真ですが、電球や水銀灯やいろんな色の光源が混じり合って、アジアの独特な空気感を「PX1V」とハーネミューレの「フォトラグ サテン」はよく引き出してくれています。もうひとつ、ベネチアの写真は落ち着いたトーンでプリントしたいなって思ったのでキャンソンの「エッチングラグ」を使いました。この藍色っぽい深い色から青にかかっていくグラデーションも絶妙に出してくれていて、青も出ているけど赤も出ているし、赤も出ているけど青も出ている、というようにその場の情景を深く描き出してくれています。もうひとつのベネチアの写真はトワイライトの早朝の時間帯でのもの。少しマゼンタが入ったところから青にかかっているグラデーションがきれいに表現されています。「PX1V」は、こんなトーンの出し方も得意なんだなぁ、と改めて感じました。
写真の雰囲気に合わせて用紙を選んだというコムロさんのカラー作品。「PX1V」が描く情景描写や絶妙なトーンを味わう
早朝のベネチアで撮ったコムロさんのカラー作品を「PX1V」でキャンソンの「エッチングラグ」にプリント。マゼンタから青に変化するグラデーションがきれいに描写されている
大門:コムロさんが仰るようにグラデーションってプリントで表現するのは難しいですけど、きれいに出ていますよね。それに白飛びしたとしても嫌みじゃないですよ。作品づくりをしていて感じますが、モニターで白飛びや黒つぶれを確認しても、実際にプリントするとそれほど気にならないことが多くて、プリントが写真をちゃんと受け止めてくれます。私は普段はバライタ系が多いですが、マット紙だと白飛び部分などは紙の「地」も味わえますしね。
コムロ:「地」は大事です。パキッと表現される紙とかやわらかく表現される紙などがあるので、そうした違いもプリントでは楽しめますから。
今回使った用紙で面白かったのはありますか。
大門:和紙は面白かったですね。アワガミファクトリーの「いんべ-厚口-白」を使ったのですが、「PX1V」だと黒が潰れすぎることもなく、一方で嫌らしくない感じで階調が浮き出てくるという感じがいいなと思いました。バライタとはまた違った雰囲気です。それに、プリント直後の「シナシナ」した感じ(笑)がしなくて、プリント直後でも用紙の張りが保たれるようになって和紙でも使いやすくなりました。
コムロ:この和紙の作品、とても好き! それにしても同じ写真なのに、用紙によって印象がこんなに変わってしまうのは驚くやら楽しいやら。まさに「用紙沼」にハマるとはこのことですね(笑)。バライタ系の用紙だと私はモノクロをプリントしたくなるんです。「PX1V」を使ってみると、しっかりと黒を締めてくれるだけでなく、締まりながらも階調もあって。モノクロプリントが楽しくなります。
大門さんの写真を2枚のバライタ系と「いんべ-厚口-白」とにプリントし比べてみる。写真だとわかりにくいが、当然ながら用紙によって写真の見え方や印象は変わってくる。コムロさんが指さしているのが「いんべ-厚口-白」
04厚手の紙も安心してプリントできる
「PX1V」
プリント作品の制作では、作品の存在感を高めたり展示した際の平滑性を高めるなどの目的で、比較的厚手の用紙が好まれます。これまでプリンター泣かせだったともいえる厚手の硬い用紙ですが、「PX1V」は、かなり厚手の用紙でもスムーズにプリントできたそうです。
「PX1V」を使ってなにか発見したことはありますか?
大門:プリンタードライバの[用紙種類]に[バライタ]や[和紙]も用意されて、オッ!と思いました。エプソンさんが写真家の要望を反映してくれたのだと思います。加えて「PX1V」はプリントの解像感が高まったように感じました。
コムロ:「PX1V」では手差しの給紙が本当にラクになりました。用紙をセットする際に紙の角を潰してしまったり、斜めにセットされたりすることもなく、とってもスムーズにセットしてプリントできます。高価な用紙も安心して使うことができるようになりました(笑)。画質や使い勝手も含めて「PX1V」の点数を付けるとすれば10点満点の10点です!
大門:私は手差しで紙をセットするのが苦手でした……。でも「PX1V」でセットしてみたら問題なくできました。手差しによって使える用紙の幅も広がりますね。
コムロ:液晶パネルが大型になって見やすくなりましたよね。プリント中にサムネールやプリント情報も表示できるので、何をプリントしているのか確認できて助かります。残りのプリント時間が表示されるのも嬉しい配慮です。
大門:プリント中にプリンターの内部が見えるのもいいです。私、とてもせっかちなので(笑)、きちんと動いているのが確認できたり、プリントの残り時間を確認したりできると安心します。それから動作時の音も小さくなったのも嬉しい変更点です。
手差しで給紙するのが苦手だったという大門さんだが、「PX1V」での手差し給紙はスムーズにできた
液晶パネルにはサムネールやプリント情報を表示させたり、プリントが終わるまでの時間を表示させたりすることができる
05ふたりにとっての「プリント」とは
写真家にとってプリントとは? 少し抽象的な質問に一生懸命に考えて答えてくれたおふたりの言葉は、私たちにも作品制作をする上での「気づき」をもたらしてくれそうです。
「PX1V」や用紙の話などいろいろお話いただきましたが、最後におふたりにとってのプリントの意味を教えてください。
大門:プリントって思いを定着させる作業だと思っています。プリントには撮ったときの気持ちやその場の空気が圧縮されていて、見る人はそれを解凍しながらのぞき見ていると……。プリントを作ること、あるいは見ることによって撮影の「追体験」ができる、私はそんなふうにプリントを捉えています。使いやすく高画質でプリントしてくれる「PX1V」なら、その追体験の喜びを存分に感じ取ることができます。
コムロ:ステキな言葉! 私の場合はスナップが多いですが、スナップって街のドラマを見つけながら、そのワンシーンを写真に収める作業だと思っています。そして、プリントはそれを形にできる唯一の方法なんですよね。プリントするときって撮影時の高揚感を思い出しながらも、少し俯瞰して自分の作品を見ている、そんな楽しさを感じます。「撮る」ことや「レタッチする」ことと同様に「プリントする」ことも写真表現の楽しみのひとつだと思います。イメージ通りのプリントが得られる「PX1V」で、プリントがもっと楽しくなりました。
- (注)本媒体上の他者商標の帰属先は、商標についてをご確認ください。