01そもそもポートフォリオって?
「ブック」と「ボックス」
「ポートフォリオ」という言葉って、なんとなく使ってしまっている人もいると思うのですが、具体的にはどういうものを示すのでしょうか?
窪山:ざっくり言うと、「自分のこれまでの作品をファイルした作品集。あるいは、自分の活動や興味ごと、考えていることを第三者に伝えるためにまとめたもの」でしょうか。写真表現をしている人なら、ひとつのシリーズを1冊にまとめたものですかね。
一方で、学生さんや就職活動中の方、特に広告写真やエディトリアルを目指すフォトグラファーの方がつくるポートフォリオもありますよね。行きたい企業にアプローチするため、撮影の仕事を獲得するためのものとして。表現としてつくるものとは、中身や構成が違うとは思いますが、そういうものもポートフォリオです。
速水:株や投資信託とかでも「ポートフォリオ」って言いますよね。自分のやってきたことの資産や商品、と思うのがいいかもしれません。基本的には、「自分をプレゼンテーションするもの」と考えるのがいいと思います。
窪山:そうですね。「プレゼンテーションブック」というとらえ方もできます。
種類としては、大きくわけると「ブック」と「ボックス」がありますよね。
速水:「ブック」は、読んで字のごとく「ブック」で、背が綴じられているものです。ファイルのようになっているものが多いですね。ページが構成されているので、ストーリーを読み取りやすい。
参考:ブックタイプ (作品協力:写真家 内倉真一郎さん)
<ブックタイプの選び方>
ブックタイプは、「サイズ」と「縦横」で選びます。大四切や、インクジェットならA4、A3、A3ノビがスタンダード。はじめてならA4が扱いやすいでしょう。「縦横」については、風景などの写真なら横長のブック、ポートレイトなら縦長のブックを使うのが一般的です。
付属で「リフィル」が10枚ほどついていることが多く(両面で最大20枚)、より多くしたい場合、リフィルを買い足して写真の枚数を増やすものが多いです。
速水:一方でボックスは、箱にプリントを入れるタイプのもの。一枚一枚が独立しているので、並びの組み換えなどができることと、プリントを「モノ」として見やすい特徴があります。
参考:ボックスタイプ (作品協力:写真家 北義昭さん)
<ボックスタイプの選び方>
基本的には、印画紙もしくはインクジェット用紙と同じサイズが販売されています。ギャラリーへの持ちこみなどであれば、展示サイズに合わせてA3サイズ以上で用意することをお勧めします。ボックスタイプは、取り扱い店舗が非常に限られていますので、以下のサイトを参考にするとよいでしょう。
(関東)
コスモスインターナショナル(関西)
しゃしんのまど(ブルームギャラリー)
02もっとも重要なのは、
「どこで」「誰に」見せるか
「ブック」と「ボックス」、どちらを選ぶのがいい、というのはありますか?
窪山:「どちらがいい」ということは、実は言えません。「どこで見せるか」「誰に見せたいか」によって、形式やサイズが変わるからです。そこがいちばん重要。
たとえば私はギャラリストですが、持ち込みの場合、「ボックスタイプ」で持ってきてもらえると嬉しい。ギャラリーでは販売もするので、展示作品に近い状態の写真を見たいというのがあります。持ち込まれるサイズで多いのは、展示するイメージサイズで、インクジェットプリントなら、A3かA3ノビでしょうか。
作品全体の流れやストーリーももちろん気になりますが、美しくプリントされた作品をみて「この1枚がすごく気になる」ということもある。1枚1枚のプリントをじっくり「モノ」として見たいと思っているのでボックスで見たいんです。
速水:ギャラリストの着眼点ですよね。販売をするなら、「1枚のモノとして価値があるか?」を判断しないといけない。
写真集をつくる編集者から見た場合だと、「写真集」になったときのものを喚起させるかどうかが結構重要になるから、ストーリーが必要。そうなると、ブックタイプのほうがいいかもしれません。ボックスタイプで見せても「あなたどういう順番で見せたいの?」という話になる可能性が高い。
窪山:私も総じてボックスがいいわけではなく、「持ち込み」ならボックスがいいけれど、写真展会場までボックスタイプだと少し見づらいし扱いづらいかな。
職業病と言われそうだけど、雑にプリントが扱われている場に遭遇したりすると、ついつい持ち方はこう!って、言いたくなってしまう(笑)。
速水:グループ展のような、限られたスペースを想定したときだと、ぱっと手にとれるA4サイズぐらいのブックがやっぱり手にとりやすいですよね。
窪山さんがおっしゃるように、「どういう空間」で、「だれに見せるのか」ということで、ポートフォリオのタイプやサイズは変えていくことが必要ですよね。
「持ち込み」や「展示」のほかに、ポートフォリオが必要なシーンってありますか?
速水:ポートフォリオレビューですかね。基本的に制限時間は20分程しかなく、ある程度作家の意図がしっかり見えたほうがいいので、ブックタイプが多いです。ボックスタイプで持ってきて、限られたスペースに写真を全部並べられても困ることもある。
窪山:見せる相手を想像しないといけないですね。でもだからこそ、サイズとか用紙とか含めて、作り手が制作方法を「選択する」ことが重要だと思いますよ。
速水:そうですよね。「どういう人に見せるか」というアウトプットに合わせられる環境は整っていたほうが写真家として有利です。プリントクオリティ自体は、プロラボのようなお店プリントでも、自宅でインクジェットプリントでもどちらでも問題ない。ただ、自宅のインクジェットプリントなら、作品を見てもらう直前まで紙選びやサイズ、見せ方を検討できますよね。そうした制作環境へのこだわりは、作品づくりへのこだわりにつながると思います。
03手にとってもらえる
ポートフォリオにするために
「誰に見せたいか」を想定したうえで、ポートフォリオをつくるにあたって気にすべきことはありますか?
窪山:2009年から5年間ぐらい、「ポートフォリオ展」というのをやったことがありました。ZINEもまだ流行っていないような時期に、いろんな作家さんがつくったブックを一堂に並べる展覧会を合計10回開催しました。そこで面白い発見だったのが、中身の良し悪し以前に、気になって手にとりたくなるものと、そうでないものがあるなということ。
「ポートフォリオ展」2009年BLOOM GALLERY
速水:手に取りたいかどうかの「見た目」も重要ですよね。
窪山:日本では、写真作品をファイリングする「ポートフォリオ」として販売されている商品がかなり限られているので、見た目に差をつけづらい。でも逆に言えば、少しの工夫をすれば、お金をかけなくても気に留めてもらえる、見たくなるブックがつくれるということでもあります。
中身の構成はどうでしょうか?
窪山:「こうするのがいい」というのはなかなか言えませんが、ポートフォリオでよくある失敗は、アート紙でプリントしているのに、それを高光沢のリフィルに入れてしまうことですかね。用紙のディテールが大事なのに、ファイリングされると細部が見えなくなりますから(笑)。
光沢感のあるリフィルに、テクスチャが強い用紙を入れるのは避けたい
速水:あれは本当にもったいないですよね。あとは、同じポートフォリオの中に、複数のシリーズを入れてしまうのも良い印象は持たれないんじゃないかな。シリーズはシリーズ毎で分けたほうが良いと思います。
窪山:作家には「展示用とポートフォリオ用のプリント用紙は同じにする必要はない」っていう話もしています。展示作品に高級紙を使うのはいいのですが、同じ作品をブックにすると、厚くなったり重くなったりする。ブックなら光沢紙や半光沢紙などの癖のない用紙のほうが見やすい場合もあります。
速水:用途によって、用紙も使い分けられていた方がいいですよね。
窪山:中身のレイアウトの話をすると、縦写真と横写真が混ざっている場合、レイアウトを気にせずそのままファイリングしている人を見かけますが、見る側は写真の向きが変わるごとにブックを回転させないといけなくなるのでとても見づらい。もったいないなと思います。
速水:縦写真の流れの中で横写真を使う場合は、用紙は縦位置のまま写真を横にレイアウトするなどの工夫は必要。今は、比較的簡単に写真をレイアウトできるソフトもありますし、相手が見やすいことを意識してほしいですね。
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窪山:速水さんはたくさんのポートフォリオを見られてきた中で、見やすい理想の枚数ってありますか?
速水:「理想」というのはないけど、3枚だとちょっと辛いですよね(笑)。10枚だと少し少ない印象なので、12枚から40枚くらいでしょうか。ただこれも、何を伝えたいかによって枚数って変わると思うので、「この枚数が正解」というのはありません。
窪山:たとえば、はじめて個展を目指すという方だと、「いい写真を足していく」と考える方が多い。でも、実際は「引いていく」という意識の方が大切です。たとえば20枚で組むなら、「20枚を埋める」のでなく、その倍以上枚数の中から「20枚に減らす」という意識をもったほうがポートフォリオの完成度は上がりますよね。
速水:そういう作業に慣れていない人は、コンタクトプリントや、L判サイズなどのプリントでいいので、まずはすべて紙に出力するのがいいと思う。「紙」というフィジカルなものにして作業をすることは、セレクトにおいてすごく重要です。
速水:たとえば100枚のプリントを、「これはアップ」「これは引きの写真」「インパクトが強いからブックの1枚目に」といったように、分類することで自分の写真を俯瞰してみられるようになります。
04対面できる「リアルな場」を、
ポートフォリオで最大限に活かそう
速水:繰り返しになってしまいますが、「ポートフォリオは●●タイプがいいですよね」という話はなかなかできません。
むしろ、積極的にプリントのサイズ、用紙、レイアウトは、相手や環境に合わせて変えてみることを考えたほうがいいと思っています。
だとしたら、用途に応じて出力できる環境はつくっておいたほうがいい。インクジェットプリンターをもつことは、臨機応変に対応できる環境を手に入れることだと思います。
窪山:「こんなことを表現してみたいのですが、とりあえずL判でプリントしてきました」といわれるより、頭の中のイメージを形にしてみたりそのサイズにして持ってきてくれる方が、具体的な話ができたり良いアドバイスをしてもらえることも多いと思います。
速水:持ち込みにしても展示にしても、ポートフォリオレビューにしても、対面したときに具体的なものを持っているかどうかが、大事なところだと思います。
窪山:せっかく「リアルな場」という選択肢をとっているのであれば、自分のポートフォリオをきちんとつくったうえで話した方が、絶対に得られるものが多い。コミュニケーションツールみたいなものだと思いますけどね。
速水:そう、コミュニケーション。これだけ写真を撮っている人が多い中で、どこで差をつけるかって言うと、アウトプットの質です。だから、紙やサイズ、さらにはプリントの質まで細部にこだわれる環境を整えることはとても重要だと思いますよ。
- (注)本媒体上の他者商標の帰属先は、商標についてをご確認ください。