01わたしはスパルタです
午前9時30分。佐藤さんの「わたしはスパルタですので」というあいさつで撮影会がはじまりました。凛とした語り口調とキレのある所作が印象的な、気っ風のよい“師匠”という感じの方です。なんというか、その言葉には“力”のようなものがあって、思わず師事したくなってしまう、そんな方です。
佐藤:本日はモデルさん2名に対して参加者が6人ですので、ゆったりとした、とても贅沢な撮影会だと思います。まずは1対1でモデルさんと対面して撮ってもらって、次の段階では自分でロケーションを決めてトライして、っていうのが何回も繰り返します。最初は上手くいかなくても次は大丈夫とだんだん慣れてきたり、このモデルさんはこういう表情がいいなと分かってきたり、そういうことを感じ取って撮影してもらえたらいいなと思います。
6名の参加者を前に、佐藤さんが本日の撮影会について簡単にレクチャー。どのように撮っていけばよいのか、具体的で分かりやすい説明に参加者も大きくうなずく
撮影会が行われた場所は、都内にある3階建てのハウススタジオ。当日は、2階と3階が撮影スペースに割り振られていました。
1階には、Epson Proselectionの最新鋭機「SC-PX1V」(以下、「PX1V」)が3台も用意されています。ほとんどのモデル撮影会は撮るだけで終わりますが、今回は「プリント制作+講評」まで行うという、至れり尽くせりの内容です。
モデル撮影会はどのように行われているのか分からず、怖くて参加できないという方も多いかもしれません。自分が参加しても大丈夫だろうかと、撮影のレベルや、カメラやレンズなどの機材面で不安になることもあると思います。
でも、安心してください。
実際に取材してみて、初心者でも大丈夫だと実感しました。むしろ、初心者だからこそ得るものが大きいと思います。
カメラとレンズも、上級者が使うような本格的なものを用意する必要はありません。カメラを買ったときに付いているズームレンズでOKです。今の知識と機材で参加してみて、「こんな風に撮りたい」と思ったら、ステップアップしていけばよいのです。
事実、参加していた方々も、ほかのひとたちの撮り方や写真、機材を見て、次はこうしようかな、と話していました。プロからのアドバイスはもちろんのこと、参加者同士の交流で得られる情報や知識も、撮影会に参加するメリットといえます。
今回の撮影会はベテランから未経験者までさまざまでしたが、雰囲気が硬かったのは最初だけ。撮影がはじまると撮ることに集中して、そんなことは気にしていられない、という印象でした。
モデルの塗木莉緒さん(左)と高橋ゆりさん(右)、そして佐藤さん(中央)。参加者に囲み撮影を懇願されるほど、佐藤さんは大人気
02撮影会はこんな風に進行します
今回の撮影会は、ひとりずつ撮る時間を決めて、交代制で進行していくスタイルです。撮影タイムは3時間用意されていて、2人のモデルに対して撮影者が6人ですから、単純計算でひとり当たり1時間もの間、プロのモデルを占有できることになります。
イベントごとに進行方法やルール、マナーは異なりますが、たいていの撮影会では前もって説明があります。それを頭に入れておけば、はじめてでもまずは大丈夫です。
撮影会がはじまる前には、スタッフや写真家からの説明があるので、そこで撮影の進め方やマナー、ルールなどを確認しておきたい
佐藤:3人でグループになり、2分ずつ撮って交替していきましょう。どこでどのように撮りたいのかを彼女たちに指示しながら撮ってみてください。残りの2人は、撮影している人の邪魔にならないように、周囲から撮ってもらえるといいかなと思います。もしくは、露出のテストをしたり、シャッタースピードをチェックしたり、自分の番に向けた準備をしてみてください。
段取りの説明をしていた佐藤さんですが、ちらほらとスパルタな一面も見せます。「モデルさんに対して無言で撮っていると、わたしはレフ板で邪魔をしますよ(笑)」と。
会話をもつこと。必ずコミュニケーションをとりながら撮影すること。これは、佐藤さんが提唱するポートレート撮影の基本です。事前の打ち合わせのときも、「声をかけて撮ることが大切」と繰り返していました。
声掛けは慣れないと難しいことですが、佐藤さん曰く、無理やりにぎこちない会話をする必要はなくて、表情がよかったとか目線を外してとか、そんな会話や指示でもよいとのことです。
その言葉どおり、みなさん撮る前には必ず「どこを撮る」のか、「どこまで写っている」のかを伝えていました。コミュニケーションや指示が不明瞭なときは佐藤さんが助言を出し、それを繰り返すことで、初心者もコミュニケーションの取り方が自然に身に付いていく、という印象です。
佐藤:2分間の撮影を終えると、「ああすればよかった」とか出てきますから。そうしたら、次はそれを生かせばいいんです。
佐藤さんの事前説明は、進行の仕方だけでなく撮り方をアドバイスするなど、座学的な要素も含まれていました。
そして、説明の最後に「作品のプリントを作ってもらうからね」と佐藤さんが告げます。本日は、撮った後にひとり5枚の写真をセレクトしてA4でプリントを作り、最終的にA3ノビで作品を出力するという流れです。作品プリントを作るという目的が明確になり、6名の参加者の目が変わりました。
いろいろなタイプのプリント用紙を使えることに喜ぶ参加者もいれば、プレッシャーを口にする方もいます。そんなみなさんに対して、「まあまあな写真でも『PX1V』が助けてくれますから」と佐藤さんは場を和ませていました。
参加者は冗談に捉えたかもしれませんが、佐藤さん自身が「PX1V」ユーザーで、打ち合わせの段階からその魅力や実力を滔々と語っていましたから、この言葉に偽りはないはずです。
用意されたプリント制作の環境。3台の「PX1V」を使い、光沢紙やマット紙、絹目調など、興味のある紙を使って作品の出力が試せるという
03足りないものが学べる場
撮影タイムがはじまりました。参加者は3人ずつの2グループに分かれて、2階と3階の異なるフロアで撮影します。
「まずは自由に撮ってみて」という佐藤さんの言葉に、みなさんは戸惑いながらも撮影を開始。撮影会に何度も参加しているベテランは自分のポジションで、初参加の方は恐る恐るという雰囲気です。
まずは、撮影をはじめる前のウォーミングアップという感じです。佐藤さんはレフ板をもちながら、状況を観察しています。そしてすかさず、声をかけます。
佐藤:「そんなに離れていていいの?(笑)」
佐藤さんの視線を追うと、遠巻きに、遠慮がちに撮影している参加者の姿が。佐藤さんの声をきっかけに、それぞれがモデルを囲むように撮影をはじめました。
「自由に撮って」の声に、それぞれのポジションを探す参加者たち。この段階では現場の雰囲気に気圧され、参加者もモデルも緊張気味の印象
数分間のウォーミングアップが終わると、2分ずつの撮影タイムがはじまります。
ベテランが率先して先陣を切り、初参加の方はその様子を観察しつつ、周囲から撮影に臨んでいます。
佐藤さんはその横で撮影をアシストしつつ、現場をコントロールします。撮っている人以外にも目を向け、「横からのカットも結構よかったりするから」と助言。ときには、視界の外で撮っていたはずの参加者のカメラの構え方にもアドバイスを送るなど、驚くほどに周囲に目を向けています。
「見られている」という緊張感が伝わるのか、当初は遠慮がちだった参加者の態度も徐々に変化し、横からのカットを積極的に狙ったり、自分の撮影を振り返ったりと、それぞれに工夫しはじめていました。
撮影が進むと参加者自らがポジションを探し、持ち時間以外でも積極的に撮影。佐藤さんはレフ板持ちでアシストをしつつ、アドバイスを送る
佐藤さんはというと、質問されたら撮り方を提案し、ときには撮影のヒントを与え、上手く撮れている(だろう)ときは状況を見守りつつ、周囲にも目を向け、外光の状態から撮影場所の候補を見繕っている様子でした。
佐藤さんが送る言葉は、参加者のレベルに合わせて分かりやすかったり、ハイレベルだったりとさまざまです。
時間が進むにつれて参加者も撮影に慣れ、やりたいこと、撮りたい画が明確になってきます。佐藤さんはその意図を読み取り、露出や構図のポイントなどを的確にアドバイスします。
たとえば、窓辺で撮影しているシーンがあったのですが、レフ板で撮影のアシストをしつつ、「窓枠は変な曲がり具合だと気になるので、まっすぐにするのか、意図的に曲げるのか――(ハッキリさせようね)」とつぶやくように声を掛けるという具合です。
参加者がモデルにポーズを要求すると、「どっち向き?」「カーテンはこのままでいい?」など、不足している要素を促します。撮り方を「直接教える」というよりは、撮りたい写真に足りないものを「気付かせる」ようなアドバイスです。
その言葉を得て、参加者はどうすればよいのかを考え、自らで答えを出していきます。そして、よりよい方法があるときは「こっちもいいんじゃない」と示唆し、狙っている写真が撮れるほうへと導きます。
佐藤さんは、撮影者の意図するシーンが撮れるようにアドバイスを送りつつ、場合によっては異なる角度やアングルでも撮ることを促す
これは事前の打ち合わせで佐藤さんが語っていたことですが、大切なのは「撮れ高」を増やすということ。気に入った場所やポーズで撮り続けるのではなくて、次々とシーンを変えて撮っていくフットワークの軽さ。佐藤さんの出すヒントは、「動きを見せる」だったり、「シーンを変える」ためのものが多く含まれていました。
佐藤:モデルと1対1で対峙すると、緊張のためか、ここだって決めたところで撮り続けちゃう。しかも、ファインダーで顔しか見ていないから、同じような写真ばかりになっちゃって。いろんな表情を撮ったり、いろんな光を撮ったりっていうのがポートレート撮影の醍醐味だということを伝えたいと思ってます。
そんな狙いもあって、今回の撮影会では「5枚の写真をプリントする」という課題を出したのかもしれません。作品を5点制作するということは、それ以上のバリエーションが必要です。もちろん、それを撮るのが参加者の目標ですが、佐藤さん自身も「6人に対して5点の作品を撮らせる」という課題を課したようなものです。
それは勘ぐり過ぎと思う半面、的確にアドバイスを送り続ける佐藤さんの姿を目の当たりにすると、真実なのかもと思ってしまいます。
どちらにしても、目標を掲げ、それをクリアするためのヒントが得られる佐藤さんの撮影会は、確実にレベルアップが果たせるだろうと実感しました。
撮影も佳境に入ると、当初に漂っていた緊張感はみじんも感じられず、各人が邪魔にならない範囲で試行錯誤を繰り返していました。初心者もベテランも関係なく、持ち時間以外にも作品を狙っています。
窓越しにモデルを撮影しているそのわきで、同時に別の参加者が異なるカットを狙う。こんなシーンが各所で見受けられた
ポートレート撮影会ははじめてと話していた女性陣も、小道具を使い、どん欲にイメージを具現化しているようでした。はじまったときは恐る恐るといった様子でしたが、周囲の目にも動じず、撮りたいイメージをモデルに伝えています。ほんの数時間前とは、もはや別人。佐藤さんの撮影会の凄さ、というか、手ほどきの手腕に驚きを禁じえませんでした。
本撮影会で撮影した佐藤さんの作品(モデル:高橋ゆり)
NIKON Z 7II/NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S/Mモード(F5.6、1/125秒)/ISO 200
04プロのアドバイスがすぐに試せる
撮影者の意図が実現できるように佐藤さんがアドバイスするスタイルで撮影会は進行しましたが、折り返しのタイミングで参加者を集め、残りの時間に向けた課題を告げました。それが、先にも述べた、軽快なフットワークで撮っていくということです。
佐藤:いろんなシーンを撮ってほしいから、どんどん撮り続けてその中からいい写真が出てくる。撮り続けるのもモデルさんのモチベーションの維持には大事。撮影ってリズム感も必要だったりするので、ここじゃないかなと思っても、シャッターを切ってみる。で、今度はこっちかなって光を探す。そうしていると、モデルさんも乗ってきてくれる。そこでよい表情が出やすくなる。だから、どんどんどんどん撮っていくこと。
モデルの正面や左右、つまり、写す範囲は180度あるのだから、その中でどの角度がきれいなのか、美しいのかを見ながら、引いたり寄ったり、アングルを変えることを佐藤さんは勧めます。場合によっては、背後を含めた360度だってかまわないと。
いろいろな角度、アングルでリズミカルに撮り続けることをモデルの周囲を回りながら実践してみせる佐藤さん。その撮り方からも、モデルの顔を凝視するのではなく、周囲の様子も探っていることが分かる
そして、参加者を引き付けた解説が「上手なポーズの伝え方や作り方」です。それは、参加者がソファーでモデルを撮ろうとしたときにはじまりました。自らソファーに座り、ポーズを作りながら解説します。その話に、参加者だけでなく、モデルも耳を傾けていました。
佐藤:ポージングは大事です。ソファーに座るとき、こうやって体の中央に重心がある(まっすぐに座っている)とお見合い写真みたいだけど、「右に重心をかけて」とか、「左に重心をかけて」と伝えるだけですごく変わる。
参加者にポーズのコツを伝える佐藤さん。その言葉は撮る側だけでなく、撮られる側にも伝えている
ポーズの作り方を理解したら即実践。撮影者もモデルも互いの意図を理解することで、よりよい写真が撮れるようになる
プロのアドバイスがすぐに試せるのも、モデル撮影会のメリットです。それに、自分へのアドバイスだけでなく、ほかの参加者へのアドバイスも聞くことができるので、得られる情報は膨大です。
撮影しながらもプロの声に耳を傾ける。それも、撮影会を楽しんだり、レベルアップを目指すためのコツなのかもしれません。
PART2に続く
- (注)本媒体上の他者商標の帰属先は、商標についてをご確認ください。