01写真は俳句に似ている。
「季語」となる被写体探しがポイント
夏ならでは鉄道写真の魅力や撮り方のコツはありますか?
中井:季節感を表現するという点では、写真は俳句に似ていると思います。俳句でいう「季語」にあたる“季節が感じられる被写体”を取り入れることで、季節を表現できます。鉄道写真では車輌を大きく捉えがちなのですが、僕の場合は、あえて鉄道は脇役にして「季語」になる被写体を大きく捉えることをします。
中井:季節感を表す被写体(季語)を、わかりやすく大きく捉えた例です。ヒマワリを入れることで夏の季節感をストレートに伝えています。
鉄道写真に限らないですが、夏を感じる自分らしい被写体を見つけ出し、撮りたい被写体といかに組み合わせるかが、夏らしい写真に仕上げるポイントです。
加えて、僕の場合は鉄道だけではなく、その周りに漂っている“ゆるい雰囲気”や“旅情”といったものが感じられる写真を撮りたいと思っています。ただ、写真はそうした雰囲気を直接的に撮ることはできないので、あえて車輌を小さく写したり、意図的に被写体をぶらしたりすることで、雰囲気を強調するようにしています。
中井:例えば上の写真では、鉄道車輌をあえて入れずに撮っています。この写真に車輌が入ってしまうと、そちらに目線が行ってしまって、旅情や雰囲気の感じられる写真にはなりにくくなります。そうしたときは、被写体や目に入ってくる情報を思い切って省く、「引き算」を意識して表現するのがおすすめです。
僕が「ゆる鉄写真」と呼んでいるこうした写真は、いかにして具体的な情報を引き算していくかというのがポイントです。ただ、それを撮るのがなかなか難しく、面白いところでもあります。場合によっては、鉄道写真家なのに鉄道車輌すら引き算してしまうこともあるのです(笑)。
02写真を飾る際に使用する額や用紙で、
作品の印象が変わる
ギャラリー(画廊)を開設されたきっかけはなんでしょうか?
中井:数年前にフランスのパリ北駅に行ったところ、その地下街に写真を売るお店があって、一般の方が普通に購入していました。日本では写真を買って飾るという習慣があまりないので、写真家としては、何とも羨ましい光景であり、いつか日本でもそうしたお店ができたら……写真を購入して飾る文化の足掛かりを作ることができたら……と夢見ていました。その夢が具体的な形になったのが、「ゆる鉄画廊」です。お店は下町の商店街にありますが、街の人達が集まってきてくれて、しかも全国から僕の写真を部屋に飾りたいと思って購入しに来てくださる方が大勢いて、僕はとても幸せに感じています。
写真を額装して展示する際に気を付けたいポイントは何でしょうか?
中井:皆さんにもご自身の写真を額装して、お家に飾ることを楽しんでいただきたいです。写真を飾る上で「額装」は、写真に洋服を着せてあげる行為だと思っています。額縁やオーバーマットなど、その色や形、サイズによって写真の印象が変わってくるので、それをイメージするのも楽しみのひとつです。
ここでは、皆さんが撮影された写真を、額装して飾る楽しみ方を紹介します。
(1)自分の写真に似合うお気に入りの額を見つける
額縁屋さんや、インテリアショップなどで買える額など、お気に入りの額を見つけてみてください。その額にあわせてオーバーマットを、何枚か作っておけば、気軽に写真を差し替え、飾ることができて楽しいと思います。
ゆる鉄画廊では、シンプルなシルバーのアルミフレームの額や、インテリア量販店で販売されている額を使用しています。
また、あまり写真の展示では使わないような絵画用の額を使ってみるのも面白いと思います。骨董品屋さんでユニークな額を探し、その額にあわせて写真を撮影したり、写真を選んでみるのも楽しいと思います。
ピンホールカメラで撮影し、キャンバス地の用紙にプリント。さらにメディウム(透明な絵具補助剤)を塗ることで油絵の雰囲気に仕上げてみた。
(2)プリントは必ず裏打ちをする
日本は湿気が多く、プリントのまま額装するとプリントにシワが入ったりします。そのため、額装の前に写真用品の「裏打ちシート」を使って、プリントの平面性を保つようにしましょう。地味な事かもしれませんが、重要なポイントだと思います。
(3)様々な用紙や素材を試してみる
プリントに使用する用紙や素材で、写真から受ける印象が変わってきます。
写真を飾る際に使う用紙は、エプソンの純正用紙では「
写真用紙〈絹目調〉」が、顔料・染料問わず使えて、しっとりとした仕上がりになるのでオススメです。
また「
UltraSmooth Fine Art Paper」は滑らかな質感を表現するマット用紙で、落ち着きのある仕上がりになるのでお気に入りの用紙です。
また額装だけでなく、<ハーネミューレ製のフォトカード>を使い、インスタント写真のように仕上げ、クリップなどに挟んで飾るのも素敵です。この用紙は厚みがあり高級感があるだけでなく、角が丸くなっているのもかわいいです。
これに限らず、様々な用紙や素材があるので、試してみてはいかがでしょうか?
ハーネミューレ製のファインアートインクジェット フォトカード ミュージアム エッチングがお気に入り
額装する額縁だけでなく、プリントする用紙やサイズも、色々試してみてください。
こんな風に飾ってみたいというイメージから逆算すると、発想はどんどんと広がっていくと思います。それは、撮影の方にも必ず活きてきます。
そしてプリンターを使えば、そうしたイメージを形にしてくれると思います。
03写真の「終着駅」は
プリント
この夏おすすめの撮影スポットがあったら教えて下さい。
中井:関東近郊では、はじめに紹介した作品の千葉県のローカル線がオススメです。内房の五井から出ている「小湊鐵道」、さらに上総中野で小湊鐵道に接続して、外房の大原まで繋がっている「いすみ鉄道」は、昔ながらの里山の夏の風景が撮れるので、ぜひ行ってみてほしいスポットです。
また、西日本では、愛媛県のJR予讃線は「下灘駅」が駅から海が見渡せて絶景です。
鉄道ファンにはおなじみの場所ですが、海外からの旅行者にも大人気の撮影スポットです。
最後に、こんな風に写真を楽しんでほしいというメッセージがありましたら、お願いします。
中井:写真を本格的に楽しんでいる方でも、プリントしている人は少なくなってきているように思います。僕は写真の「終着駅」はプリントだと考えています。写真をスマホの画面で見ることが増えていますが、スマホやモニターの画面だけで見てしまうと、どうしても派手さを追求してしまい、画像としては破綻している場合も少なくありません。
プリントすると、画像の破綻が確認できるのはもちろん、写真の細かい部分の質感や色まで鑑賞することができます。小さなものでもいいので、まずはプリントして、写真本来の美しさに気付いていただけたらと思います。
是非、この夏に出会った思い出は、プリントしてみてください。そして額装してお家に飾ってみたり、プレゼントしてみてはいかがでしょうか?
「ゆる鉄画廊」のご紹介
「ゆる鉄画廊」では、中井精也さんの作品販売はもちろん、ゆる鉄グッズや中井さん執筆の写真関連書籍なども販売中。都電荒川線「三ノ輪橋駅」から徒歩数分で、路面電車を楽しみつつ気軽に立ち寄れるギャラリーです。