01 プリンターって覗きたいんですよ
吉村さんの作品といえば、どこまでも透明感のある深いブルーが思い浮かびます。それくらい、吉村さんの撮る空、とくに「ブルーモーメント」と呼ばれる時間帯に写した作品は強烈なインパクトがあります。
だからこそ、印象的な青空を撮る秘訣をお聞きしたいのですが。
吉村: 照明が点くんです!
吉村さんに託したプリンターは、Epson Proselectionの最新機種「SC-PX1V」(以下、「PX1V」)。UltraChrome K3Xインクを搭載した、9色顔料インクのA3ノビ対応機種。
「ディープブルー」インクや、オーバーコートにも使われる「ライトグレー 」インクという個性的なインクを搭載し、既存のプリンターが苦手とするブルーやバイオレットの再現領域を広げつつ、締まりのある黒を実現した高性能 なモデルです。
「ディープブルー」インクを搭載し、青の再現性が格段に広がったA3ノビ対応の「SC-PX1V」。ダイニングテーブルの上でもA3ノビプリントが作れるコンパクトな本体も特徴のひとつ。
高級感が増したコンパクトなボディーや、タッチ操作が可能なチルト式の操作パネルなど、「PX1V」は「今までのプリンター以上のものが出てきた」とかなり気に入った様子です。 そして、中でもとりわけ感動したという機能が、プリント時に内部が「ライトアップ」される点でした。
吉村: プリントの進行状況を見るためにプリンターを覗き込むんですけど、この機種は照明が点いている。動作しているプリンターの内部に照明が点く。それが、すごくビックリしましたね。
本体上面のプリンターカバーの一部が透過するようになっていて、プリントがはじまると内部がライトアップされ「インクが塗られる」シーンが観察できる。
今回でこの「プロに聞く」シリーズは7回目なのですが、必ずといってよいほど、みなさん「プリントが出てくる様子」を覗き込みます。プリンターの正面から、アクロバティックな体勢で排紙口の奥を覗くのですが、「PX1V」はその必要はありません。プリンター上面のカバーが、一部だけ透過しますから。
通常は黒なのですが、プリントがはじまると内部に明かりが灯り、透過する仕組みになっています。要するに、ふたを開けて上から見ているような感覚です。吉村さんは、この演出にとても感動した様子。
もちろん、「PX1V」は色の関してもかなり好印象らしく、吉村さんが得意とする「青」の表現力に関しても熱く語ってくれました。
吉村: 僕はブルーモーメントという時間がすごく好きで、海外に行っても、必ずブルーモーメントを撮影するようにしているんです。だから、気になるのはやっぱり青の出方なんですよ。空の青い色彩とか、空の美しいグラデーションとか。「PX1V」でプリントしてみて、真っ先にチェックした点は、やはり空の青さとかグラデーションだったんですよね。見た瞬間ですね、ビックリしましたね。すごい! 美しいじゃんって思ったんです。
吉村さんは、「この機種には独特の美しさがある」といいます。それほど、青が輝きをもって再現されているということです。しかも、デジタルっぽい彩度の高い青ではなくて、自然な美しさ、自然な深みをもっている点が魅力で、そこが気に入っていると。
「中が見える」というギミック、タッチパネルの操作性、コンパクトな本体、そして、吉村さんこだわりの青が再現できる表現力の凄さ。
なんだか「PX1V」のレビュー記事のようになってしまいましたが、知りたいのはブルーモーメントの撮り方とプリント方法です。吉村さんの作品を作る上で「PX1V」は最適解ということが分かったので、まずは撮り方から教えてもらいたいと思います。
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「PX1V」は、プリントのさい内部に照明が点く演出も。操作パネルはチルト式で、タッチパネルになっているのでメンテナンスも簡単。
02 JPEGの色を大切にしたい
吉村さんは、普段からさまざまなカメラを使っています。その中でも、海外のロケにもっていく機材はペンタックスのカメラが多いそう。中判デジタルの645Zに、広角系ズームレンズの28-45mmと望遠系の80-160mmの組み合わせが主なシステムで、シーンに合わせて単焦点レンズや、フルサイズ機のペンタックスのK-1 Mark IIなども使うようです。
中判デジタルカメラを使う理由は、やはり大きなセンサーが生み出す情報量の多さ。それゆえに、吉村さんが狙う深みのある作品が生み出せるというわけです。
PENTAX 645Z/HD PENTAX-DA645 28-45mmF4.5ED AW SR/Avモード(F9、2秒)/ISO 400/WB:オート
記録方式は、RAWとJPEGの同時撮影です。ただし、撮影時に色を決めるというスタイルのため、パソコンを使っての後処理はあまりしないとのこと。必要に応じてRAWやJPEGの色を調整するという考え方です。
RAWとJPEGを同時に撮影していると、高品位で後処理の自由度の高いRAWを重視しがちですが、吉村さんがユニークなのは「JPEGの色に魅力を感じる」という点。
吉村: 最近は、JPEGもきれいな、美しい色が出ますので。やっぱり、メーカーが考えた色じゃないですか。それに、ペンタックスのカメラはJPEGも優秀なんですよね。作品を作るときも、JPEGで作業することもよくありますね。
記録形式は、RAWとJPEGの同時撮影。撮影時に露出補正で色を作り、撮影後の処理が必要ないため、JPEG撮って出しで使うことも多いという。画面はPENTAX K-1 Mark II
03 異なる露出で撮影すること
印象的な空の写真、中でも、ブルーモーメントの作品を撮るには、カメラをどのように設定して写せばよいのか、とても気になります。「ホワイトバランス」や「仕上がり設定」、「彩度」など、ブルーモーメントの色を作る方法があると思うのですが。
きっと、カメラの機能を駆使した設定があるのだろうと考えていたのです、それはよい意味で裏切られました。吉村さん曰く――
吉村: ブルーモーメントの時間帯に撮れば、カメラ側の操作っていうのは必要ないんです。三脚にカメラをセットして、リモートスイッチかケーブルレリーズで静かにシャッターを切る。カメラの設定は、絞り優先のオートで問題ないですね。パンフォーカスにするために絞り込む(F値を11よりも大きめにする)と、ブルーモーメントと地表物が美しく写せます。
PENTAX 645Z/HD PENTAX-D FA645 35mmF3.5AL/Avモード(F22、13秒)/ISO 200/WB:オート
ISO感度は、画質を得るために400が基準。三脚を使うため、ノイズが出やすい高感度の設定は使っていません。
意外だったのは、色作りに重要なホワイトバランスは「オート」で撮影している点。今のカメラのホワイトバランスは優秀で、オートホワイトバランスでも風景の状況を見極めて、適切な色にしてくれるから、というのがその理由です。
ちなみに、「ビビッド」や「風景」などシーンに似合う色にする「仕上がり設定」は、「ニュートラル」や「スタンダード」などの色が誇張されない設定を選び、「彩度」などのパラメーターの調整も行っていません。
あくまでも、「眼前の景色をありのまま写す」という設定です。ただし、露出に関しては多少の補正が必要で、何段階か明るさを変えて写すことで、イメージする青が撮れるようになります。
吉村: ただね、やっぱり段階を切るということが大事なんですよ。つまり、1枚だけで決めようとせずに、ブラケット機能をオンにして、露出を変えて3枚から5枚撮る。標準、マイナス0.3、プラス0.3、そして少し露出補正値を変更して、マイナス1、マイナス2とか。そうすると、その中のどれかは美しいブルーモーメントの作品に仕上がります。
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ブルーモーメントは色や露出はカメラ任せでも大丈夫。ただし、異なる露出でも撮影すると確実!
04 ブルーモーメントは レアで貴重な瞬間?
吉村さんの話しから、ブルーモーメントの撮影はカメラの設定より、場所や時間の選び方が大切ということが分かりました。とくに、「時間」が重要です。そもそも、深い青が出現する時間帯にその場にいなければ、ブルーモーメントの写真は写せないわけですし。
吉村: ブルーモーメントの撮影で大事なのは、やっぱり時間選びなんです。よく晴れた日ですね。よく晴れると、必ずといっていいほどブルーモーメントは出ます。時間帯は、太陽が沈んでから、40分から50分くらいですか。そうすると、空がどんどんと青くなって、ブルーモーメントの時間帯になります。深い青い色の空がはじまって、15分から20分くらいで周囲は暗くなって、闇に包まれてしまう。つまり、その15分間に撮ることがコツなんですよ。
PENTAX 645Z/HD PENTAX-D FA645 35mmF3.5AL/Avモード(F22、13秒)/ISO 200/WB:オート
写真愛好家の方はご存じだと思いますが、太陽が沈むと「マジックアワー」と呼ばれる、ファンタジックな色彩の時間帯が訪れます。周囲から陰がなくなり、藤色の光に包まれたような、とても「映える」時間帯です。ブルーモーメントが訪れるのは、さらにその後。
マジックアワーが終わったら撮影も終了、ではなくて、マジックアワーが終わってからの15分間が、ブルーモーメントの撮影タイムとなります。
吉村: ブルーモーメントの時間をマジックアワーということもあるんですけれど、僕は分けてますね。マジックアワー、その次にブルーモーメント。その次が、夜の闇です。ブルーモーメントの時間帯は短くて、2~3カットくらいしか撮影ができない。三脚を立てて、じっくりと撮影しますから。だから、時間を上手く見極めることが大切です。
もうひとつ、美しいブルーモーメントが出現する条件を教えてくれました。それが、「雨上がり」です。大気がかすんでいると、おのずと空も白っぽくかすんでしまいます。これでは、透明感のあるブルーモーメントは出現しません。
したがって、ベストな条件は雨上がりや嵐が去った後。この条件の下なら、大気のチリが洗い流されて、とても美しいブルーモーメントが期待できるそうです。
もっとも、ブルーモーメントは晴れても曇りでも、そして雨でも撮影できるらしく、吉村さん自身、曇りの日や雨の日のブルーモーメントも撮っているのだそう。これはとても意外でした。
吉村: ブルーモーメントは、基本的に毎日撮影しているんですよ。晴れの日はもちろんですし、曇りや雨の日も。曇りの日のブルーモーメントは、肉眼では青く見えないんだけど、カメラで撮るとなんとなく青い、という感じです。その世界も、僕はひとつのブルーモーメントだと思っているんですよ。雨の日もなんとなく青くなる世界っていうのがあって、それを撮ることもあります。
「これは曇りの写真です。かなり曇っていた記憶がありますね」と見せてくれた作品が、下の写真です。一面に雲がかかっていて、雲の陰影すら見えない曇り空のブルーモーメントを写したものです。
ちなみに、曇りや雨の日のブルーモーメントも、ホワイトバランスの設定は「オート」で撮影できるそうです。
PENTAX 645Z/HD PENTAX-DA645 28-45mmF4.5ED AW SR/Avモード(F7.1、1.3秒)/ISO 400/WB:オート
ブルーモーメントの撮影は簡単なのだと、吉村さんは繰り返します。その場にいれば、あとはシャッターを切るだけだからと。きれいに撮れないのは、時間帯が悪いか、撮影の設定にこだわり過ぎているか。とくに、ホワイトバランスを調整し過ぎると不自然な色になりやすいと吉村さんは警告していました。
最後に、ブルーモーメントの撮影に関して、吉村さんが教えてくれたことをまとめてみました。
露出は「Avモード」でよい
ホワイトバランスは「オート」にセット
露出を補正して複数枚撮影する
太陽が沈んでから40分後くらいが撮影タイム
シャッター速度が遅くなるので三脚は必須ですが、決して難しくはありません。それに、晴れでも曇りでも雨でも撮影できるのですから、撮りやすい被写体のひとつといえるのではないでしょうか。
もっとも、だからといって吉村さんのような作品が簡単に撮れるわけではなく。吉村さんの作品にはやはり、プロならではの「仕掛け」がありました。それに関してプリントを手に解説してくれたのですが、その詳細は後半で紹介したいと思います。(後半に続く)
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時間、天気、方角を見極めて、美しいブルーモーメントを撮影する。