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やましたひでこさんに聞く ビジネスシーンにおける「断捨離」の意義

「断捨離」という言葉をテレビや新聞、雑誌などで誰もが一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。この新しい片づけ術が初めて世の中で広く知られることとなったのは2009年のこと。クラター(clutter、英語で「ガラクタ」の意)コンサルタントであるやましたひでこさんが、自身の著書『断捨離』で提唱したことがきっかけです。

今や国内のみならず台湾や中国でもベストセラーとなっている同著ですが、「断捨離」の考え方がここまで多くの人の心を掴むのはなぜなのでしょうか。また実際に私たちの日頃のビジネスシーンにおいても、この「断捨離」は有用なのでしょうか。やましたさんにお話を伺いました。

「断捨離」とは単なる「モノを捨てる行為」ではない

――今や多くの人が知る「断捨離」ですが、中には「ただ単にモノをひたすら捨てる片づけ術なのでは」という印象を持っている人も多いかもしれません。まずは「断捨離」とは何なのか、その基本の考えから教えていただけますか?

やましたさん もともと「断捨離」とはヨガの行法哲学である「断行・捨行・離行」をベースに生まれた言葉です。これは、物質的・精神的問わず過剰なものを取り除こうという哲学なのですが、この考え方を日常生活に落とし込むとすると、どのようなアプローチであれば誰もがイメージしやすく、実践できるだろうかと考えてみたのです。そこで、「身の回りの“過剰”を引き算する行為」として最も身近だと思ったのが、片づけでした。

――ということは「断捨離」とは単なる片づけ術ではなく、そのものが「断捨離」という考え方なのですね。

やましたさん そうです。「断捨離」のいろはをお伝えする以前に、まず整理しておかねばならないことがあります。それが「掃除」「整頓」「片づけ」の違いです。テレビや雑誌でも「片づけ特集」「整頓のコツ」など、頻繁に特集が組まれていますが、どれも似た様な内容ばかりで違いが明確に説明できない人も多いでしょう。しかし、これら3つはまったくの別物なのです。

――といいますと?

やましたさん まずは「掃除」。これは言わば汚れをきれいにするための「掃く・拭く・磨く」ということです。そして「整頓」。私はこれを、よく女性誌やインテリア雑誌で目にする「収納」のことと定義しています。ですが、この二つを繰り返しても決して家やオフィスの環境はよくなりません。なぜか? それは、もともと周囲にあるモノの総量が多すぎる、つまり「片づけ」ができていないからなのです。

――では、「片づけ」でまず手持ちの品数を減らさなければならないということですね。

やましたさん そうとも言えます。でも、「片づけ」とは単に捨てる行為を指すのではありません。「片づけ」は、そのモノ自体が自分に必要で、ふさわしくて、使っていて心地の良いものなのかを見極める、その判断基準を養うということなのだと、私は考えています。

モノに「今」という時間の概念を与える

――なるほど。では、そのモノの要/不要を判断する基準ですが、具体的にはどのような感覚を養うべきなのでしょうか。

やましたさん 部屋全体でも、クローゼットや引き出しの中でも、私はその空間に存在するモノを3つに分類できると考えています。一つは「忘却物」で、所有していたことすら忘れてしまっているモノです。二つ目の「執着物」は、勿体無いから仕方なく使っていたり、もしかしたらいずれ使うかもしれないと思っているモノ。そして残りが、私たちが日々の生活で有効に使っているモノです。これらの割合は5対3対2。つまり、私たちは普段から身の回りの2割程度のモノしかアクティブに活用できていないのです。

――アクティブなモノとそうでないモノを判断するために、分かりやすい判断基準はありますか?

やましたさん 私がいつもお話ししているのは、モノに「今」という時間の概念を与えるということです。「そのモノは、今必要なのか?」「今の自分に、それは相応しいものなのか?」……この感覚を持ち込んで、この基準にそぐわないものを捨ててしまいます。具体的には、まず5割の「忘却物」が対象になるでしょう。存在していたことすら忘れている過去のモノをいつまでも手元に置いていたところで、それは生活や人生における“淀み”となって、自分の身体の重りとなるばかりです。それよりも、今の自分に必要なモノだけを揃えることで、ずっと生活や思考が身軽になるはず。これが「断捨離」の基本です。

過去のモノに捉われたオフィス環境から脱却しよう

――では「断捨離」の考え方や、それを元にした行動はビジネスのシーンでも活かすことができるのでしょうか。

やましたさん もちろんです。私は今いろいろな企業に講演に出かけることが多いのですが、つい先日基調講演に出向いた会社も、不要なモノを減らすことで3つの「キドウ性」を高めようと頑張っています。これは新しいことにチャレンジする際のスタートダッシュをかけるための「起動」、身動きが取りやすい環境をつくるための「軌道」、そしてフットワーク軽く仕事をするための「機動」という3つの「キドウ性」を、「断捨離」によって高めようという考え方です。

――確かに不要なモノを減らして、停滞した空気を一掃した環境では仕事の効率もグッとあがりそうです。しかし、プライベート以上にビジネスのシーンにおいてはバッサリとモノを捨ててしまうのにも勇気が必要のような気もします。

やましたさん そうですよね。きっとそれは「この書類を捨ててしまっても、責任が取れない」と考えているからでしょう。けれど、かつてのプロジェクトのレジュメや、もう二度と会うかもわからない人の名刺を、いつ来るかも分からない未来のために取っておく必要はどこにあるでしょうか? そんなモノに捉われて淀んだ作業環境の中で窮屈に仕事をするより、スッキリとしたデスクで快適に過ごした方が、幾分健全なビジネスライフが送れる様に、私は思いますよ。

――なるほど。やましたさんのお話、とても説得力があります。

やましたさん まずは机の引き出しひとつからスタートすればいいのです。「断捨離」はトライアンドエラー。繰り返していくことで、自分の中での「捨てるべきかどうか」の判断基準は養われます。そうして本当に今の自分に必要なモノだけが残った後に、「整頓」や「掃除」の作業に取りかかりましょう。

やましたひでこ流、スキャナー使いの勘どころ

――今回は「断捨離」におけるスキャナーの使い方についてもご意見を伺いたいと思っております。

やましたさん スキャナーをうまく使いたいなら、最も大切なのは使うタイミングでしょう。紙のモノを何でもかんでもスキャナーにかけてしまうのでは、そもそもスキャンする手間もかかりますし、物理的なモノの量は減ったとしても、パソコンの中身は全く片付いていないことになります。ですから、まずは先ほどお伝えした「今」の時間軸において必要な書類だけを取捨選択する。そうして残ったものをスキャンするのです。

――スキャンした後に気をつけるべきことはありますか?

やましたさん まずはちゃんとタグをつけること。これは後々の「整頓」をする時にとても便利なのは言うまでもありません。そして、定期的にスキャンして取り込んだパソコンの中のデータを見直すことです。「今」という時間は、明日には昨日になり、5年後には5年前になります。つまり、パソコンの中身もどんどん時間が経過して、それと共に「忘却物」となるデータも増えていくのです。気がつくとパソコンのデータがいっぱいで、どこにどのファイルがあるか分からない……なんて、散らかったデスクの上と同じ様なことはよく起こるもの。データであってもきちんと「断捨離」することが、快適なビジネスライフのきっかけになるはずです。

現に、不思議なことにセミナーの後は上層部の人ほどどんどん「断捨離」を実行しているようです。「断捨離」は、単に周囲のモノの量が減ってスペースができるだけでなく、思考がクリアになったり、仕事へのスタンスまでもガラリと変えてくれる生活習慣の秘訣なんですよ。

これからも「断捨離」の考え方を多くの人にシェアしていきたいと言うやましたさん。最新の、おのころ心平さんとの共著『大切なことはすべて日常のなかにある』(かんき出版)では、やましたさんの「断捨離」の理念をベースとした「よりよく生きるためのヒント」が綴られています。

「断捨離」が実現した快適なオフィス環境は、私たちの仕事の効率だけでなく、より良い働き方のヒントにもなりそうですね。

プロフィール
やましたひでこ
クラター・コンサルタント。早稲田大学文学部卒。学生時代に出逢ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み、誰もが実践可能な自己探訪メソッドを構築。著書に『断捨離』『俯瞰力』『自在力』、近著に『大切なことはすべて日常のなかにある』がある。

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