今にも倒壊しそうな書類の「タワー」……皆さんのオフィスにも、机の上がそんな状態になっているという人が、1人はいるハズ。反対に、出社時や帰宅時には机の上にモノがほとんど置かれていない人もいますが、ここに「ヒトの心理面での特徴が表れているといえる」と話すのが、立正大学心理学部の齊藤勇名誉教授です。
机周りが汚い人は「自己愛が強い」という分析ができ、さらに周囲の人にも心理的な影響を与えるといいます。
整理ができる人/できない人の「ココロの中」はどうなっているのか、そして整理整頓をきちんと行うためにはどのような心がけが効果的なのか、齊藤先生は教えてくれました。ぜひ、ご覧ください!
「心理学的に見た、机の上がキレイか汚いかの違い、ですね? それはまず、机という場所が、それを使う人の『領域』なのだと理解することが大切です」
インタビューの冒頭で、そう切り出した立正大学心理学部の齊藤勇名誉教授。オフィスに備えられた机を使う人の心理を考察すると、机の上や周りをパーソナルスペース(自分専有のスペース)と認識し、それゆえ「周囲の人から自分の領域を侵されたくない」といった感情が起こるといいます。
「誰だって、自分だけの場所を侵されるのは、快く思いませんよね。それを踏まえて机が汚い人の行動を見てみると、隣の人の机に書類・モノがはみ出してしまい『領域侵犯』となっているケースが多いのは、読者の方もよくご存知のことではないでしょうか」
また、机周りが汚い人は「自己愛が強い」傾向もあるのだとか。この場合の自己愛とは、「自分のことには一生懸命だけど、周りのことはあまり気にしない」という意味で、つまりオフィスで一緒に働く相手の立場をあまり考えないことにつながります。さらに、周りからも「あの人はずぼら」などといった印象を持たれてしまうため、机が汚い人は結果的に、仕事と人間関係がうまくいかないことになってしまうのです。
……でも、机周りが汚い人に、いいところはないのでしょうか?
「うーん、そうですねぇ(苦笑)。机が汚い人と話をすると『どこに何があるか分かってる』『細かいことは苦手だけどアイデアを出すことは得意だ』といった言葉を聞くことが多いです。こうした答えになるのも、自己愛の強さに一因があり、また、たしかに先進的な構想を実現へと運べる人がいるのも事実なんですが……ただ、1つ注意していただきたいのは、職場の整理整頓をしなくても許されるのは、たとえば会社の数十%の収益を担っているであるとか次から次へとヒット商品を世に送り出すなど、“ずば抜けた”結果を出している人だけ。これらの人の場合、個人の名前で勝負していたり、自分専用のオフィスを持っていたり、という場合が多いですよね。したがって、一般的な多くの人が集まって共に仕事をするオフィスで机を汚くしていたら、いくら結果を出していても、反感を買うだけになってしまいます」
反対に、机がよく整理整頓された人は、周りの印象が良くなるだけでなく、社会的秩序を守る傾向が強いため、締め切りなども厳守し、その結果、チームの和を乱さないタイプであるといいます。やはり、机周りはキレイにするに越したことはない、ということですね。
では、机をキレイにするためには、どんな心がけが必要なのでしょうか?
「そもそも人間の頭の中のキャパシティは、限界があるわけですよ。だから、整理整頓できない人は、それを補うために必要な書類などを近くに置きたいとの考えに至り、モノがあふれてしまう、ともいえるでしょう。でも、先ほど言ったとおり、整理できなければ印象が悪くなり、その人自身も周囲を気にかけなくなってしまいます。
周囲をキレイにし、なおかつ、必要な書類などが手に届く範囲にある状態にするには、どうすれば良いか?――それは今の時代、デジタルデータをうまく活用する、ということに尽きます。かくいう私も整理整頓には腐心するタイプですが、『これ』と思った論文・文献は、必ずスキャナーでデータに取り、いつでも見返せるようにしてるんですよ。再び紙の文書として見たいという場合でも、いつでも印刷できるから、普段は机の上に書類の山をつくらなくて済むようになりますしね。繰り返しますが、人間の能力には限界がある。それを補完し、職場を整然な状態に保つにはデバイスとデータの活用が最適解だと思います」
ここまでの斎藤先生のコメントをまとめると、整理整頓ができない人には、次のような特徴が浮かび上がってきます。
机周りの整理整頓ができない人の4つの特徴
- 日頃から周囲のことをあまり考えない傾向がある(自己愛が強い)
- 周りの人の机にモノがはみ出してしまっても、気にしない
- 机が汚いのを問われると「どこに何があるかはわかっている」と答えてしまう
- 「細かいことは苦手だが、アイデアを出すのは得意」と考えることが多い
整理整頓ができない人の短所の中で、特に際立つのが「周囲のことをあまり考えない」傾向がある点といえるでしょう。自分の机からモノがはみ出してしまってもそれに無自覚であれば、人間関係も悪くなり、何よりも求められる職場でのチームワークが損なわれてしまいます。
一方、ここでまとめたポイントに当てはまる人の視点に立てば、「心がけだけではなかなかキレイな状態を維持できない……」と感じるのではないでしょうか。それもそのはず、先生のコメントにもあるとおり、人間の能力には限界があります。「キレイにしておきたい」という気持ちをキープするのも、仕事上の物事を永続的に記憶しておくのも、困難であるのが人間という動物の性質なのです。
そこで頼れるのが、デバイスとデータの力。現代のテクノロジーの進歩については「便利さ」や「スピード感」が強調されがちですが、大量の情報を簡単に保存できて、なおかつ、いつでも引き出せる点も見逃せません。今回、インタビューした齊藤先生も実践しているように、スキャナーで必要な情報を保存しておくなど、いつでもアクセスできる状態にしておけば、整理整頓がはかどり、さらにあなたの能力を“拡張”することができるのです。
- プロフィール
- さいとういさむ・対人心理学者。立正大学心理学部名誉教授。1943年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程卒業。日本ビジネス心理学会会長としてビジネスパーソンの心理分析を行うほか、「あいづち対話法」を開発し『超・相槌』(文響社)など200冊以上の著書を執筆。「ダウンタウンDX」(日本テレビ系)などテレビ番組でも、心理学的見地からコメントを行う。
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