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エプサイト
大和田良 写真展『Differential Notes(Case1_Nature)』
雑誌『写真』×エプサイトギャラリー特別企画展
この度、エプソンスクエア丸の内 エプサイトギャラリー(東京 丸の内)では、2022年7月22日(金)~8月31日(水)まで、大和田良写真展『Differential Notes(Case1_Nature)』を開催いたします。
本展は、写真家・大和田良さんと今注目される新しい雑誌『写真』、そしてエプサイトギャラリーのコラボレーションにより、「プリントを通じて写真を見ること」を探求する写真展です。写真展を通じて、作品を創りだす写真家側、作品を鑑賞する側、それぞれの視点から写真作品の奥深さを探っていきます。
展示に先駆け、大和田さんに本作のコンセプトや写真に対する想いなど、雑誌『写真』エディトリアル ディレクターの打林俊さんが、お話を伺いました。
最新作『Differential Notes(Case1_Nature)』について
打林:まず、今回の個展に出品される作品のコンセプトを教えてください。
大和田:今回の写真展は「プリントを通じて写真を観るという体験を一緒に作っていくこと」を目的のひとつとしています。
僕自身がどんなことをできるかと考えた時、ひとつはディテールであったりかたちであったりといったものが表すテクスチャーや量感をどうやったら見せられるか、ということに挑戦したいと思いました。それは『Differential Notes(Case1_Nature)』という今回の展示のテーマにも表れているのですが、自分の目で見たものと写真にしたもの、もっと言えばプリントにしたものとでどのように見え方が変わるか、それによって写真というものに対してどのように見方が変わっていくのか?
それは僕の写真に対する興味そのものですが、それをいろんな方向でやってみようというのが、今回の展覧会です。
作品制作について。プリント表現の魅力とは?
打林:大和田さんにとって、モニター上やweb上で見る写真と、プリントとして仕上がった写真の違いや、プリント表現での写真体験をどのようにお考えですか。
大和田:モニターで見ている画像というのは、光そのものを見ているという点で実体の無いイメージであるように僕には感じられます。それに対して、プリントは紙などの支持体に像が定着された、光を反射する物質となります。これがモノとしての写真であり、紙のテクスチャーや印画方法の特徴、プリント時の解像度などを加えた写真表現になると考えています。ですから、モニターで見る写真とプリントとしての写真は、端的に言って、表現に大きな違いがあると言って良いでしょう。僕にとってその違いは非常に大きく、それこそがプリントを最終成果であると考える理由でもあります。
プリントを通じて眺める写真に実在感や密度の高さ、あるいは奥行きのようなものが感じられるのに対して、モニター上の画像がどこか希薄に見えるのは、僕だけではないと思います。写真を見る、というのは僕にとっては多くの場合プリントを通して行うもので、モニター上の画像を見ることは、単に情報を受け取っているだけだと言えるケースが多いように思います。
打林:今回の展示作品の制作に使用したプリンターについても教えてください。個人的には、インクジェットプリントの表現可能性は年々高まっているようにも思うのですが。
大和田:今回、大きい作品はエプソンのSureColor SC-P2005PS、小型の作品はエプソンプロセレクション SC-PX1Vを使用しています。これまで、僕は保存性やトーンの観点から、ラムダプリントなどのクロモジェニックプリントを主に用いてきました。それに対して、いまのインクジェットプリントはこれまでの色空間の制限を超えて、より視覚に近いものを作れる機材だと思っています。従来のカラープリントというのは、規定の色空間それぞれの特性にあてはめていく必要があり、それはどちらかと言えば眼から離れていく方向でした。今回テーマにした視覚と写真ということを考えた時、インクジェットプリントを用いた制作は、プリントを作る方法の中で最も色空間が広くて、視覚により近いことができる可能性がある媒体であるということを実感できた制作でもありました。
打林:先ほど、大和田さんが今日一日使用していたプライベートラボにお邪魔して制作作業を拝見しましたが、指示書きをしたテストプリントが壁に貼ってあったりと、一枚の作品としてのプリントがこうして生まれていくんだなという興奮を垣間見せていただいた気がします。
大和田:インクジェットの利点を感じた点としては、そうしたフィニッシュにいくまでのテストや指示書きが、銀塩写真よりも少なくて済むなという実感がそのひとつです。モニターとプリントされたもののマッチングがすぐできるというのは、これまでの銀塩などのカラー写真技術から比較するとかなり利便性が高いですね。プライベートラボも、機材のメンテナンスやカラーマッチングの調整がしっかりされているので、プリントする環境としては理想的でした。
打林:そうした意味でも、インクジェットプリントの可能性を十分に引き出した制作だと感じました。特に今回は用紙の選択が興味深く、展覧会には黒白とカラーの両方が出品されていて、それぞれで用紙を使い分けています。カラーは半光沢紙、黒白はマット紙にプリントされていますが、この使い分けにはどのような狙いがあるのでしょうか。
大和田:プリントのテクスチャーや量感というところにつながってくることなのですが、カラーの方が見た時のキラキラした光の感じや光沢があることによるコントラストの見え方の差において、目で見たものとプリントで見たものの違いが如実に表れるように思います。その点でカラーの大判作品は、光沢感を残したテクスチャーのエプソン・プロフェッショナルフォトペーパー<厚手絹目>を選んでいます。黒白の大判作品は、カラーに比べて色がない分、ある程度抽象化されているというか、現実のものとはだいぶ違うので、それをさらに拡張していくという意味で絵的な効果がより強く感じられるエプソン・Velvet調 Fine Art Paperを選択しました。
A4サイズの小型作品は、GEKKO・シルバーラベルプラスと、ピクトリコプロ・ファインアートスムーズの2種を使い分けながらテストし、最終的にGEKKO・シルバーラベルプラスを用いて展開しています。
写真展での視覚体験、写真を鑑賞するということ。
打林:まさにその見え方の違いを示しているのが、今回の出品作品のひとつであり、メインイメージともなっている2枚続きの富士山の写真だと思うのですが、半分はカラー、半分は黒白で構成された写真なので、鑑賞者もはっきりとさまざまな比較をすることができますよね。この作品はまさに作者と鑑賞者が一緒に見る体験を作り上げていくという本展の理念にかなっていますね。
大和田:この作品から経過や行方が見えてくるという点でいうと、ワークインプログレスの考え方であったりとか、現代的なアプローチの方法というのは制作において意識している点ではありますね。
打林:それと繋がってくる質問なのですが、作品のどういったところを来場者の方々に見てもらいたいですか。
大和田:今回、結構大きい作品を主体に展示が構成されていて、プリントを近くで見た時と少し離れて見た時の見え方の違いであったりとか、プリントとして引き伸ばされた被写体の見え方というものが視覚にどういう経験・体験を与えるかというのは、展示を体験するひとつの方法だと思います。物理的に大きいというだけで写真から得られる視覚体験ってこんなに変わるものなんだというのは、ぜひ感じていただきたいと思っています。
打林:先ほど、出力したばかりの植物を写した大型作品を見せていただきましたが、あれはまさに、近づいて見ると1920年代にドイツの写真家カール・ブロスフェルトが「芸術の原型」という植物のクローズアップ写真で探求したような形態美や葉脈などディテールの自然の美しさがあり、引いて見ると抽象画のようにも見えますよね。
大和田:アンドレアス・グルスキーのサーキットを俯瞰で撮影した「バーレーン」(2005年)のようにも見えてきませんか?大きいというだけで異化されるというか、写真であることの意味がすごく強くなると思っていて、それは写真のひとつの基本的な機能だと思うし、プリントというのはやはりそれにとても適したメディアだと思うんです。
大和田さんにとってのプリント、写真のモノとしての価値とは。
打林:モノとしての写真、というのは今回の企画のひとつのテーマでもあり、大和田さん自身、写真家を志したほとんど最初から、プリントを自分の成果物と意識してきたと雑誌『写真』2号の記事でも書かれています。大和田さんの作品をずっと見ていくと、「Wine collection」(2011年)や盆栽を撮った「FORM」(2011年)、「剥製図 / Hakusei-zu」(2014年)などをはじめ、ほとんどの作品が、そもそも被写体となるモノに対してすごく愛があるというか、そのモノの存在自体を尊重することから生まれてきていると感じました。
大和田:いままでの作品もそうですが、作品を通して被写体となるモノのコレクターの方をはじめ、いろいろなものに興味をもって時間であったりお金であったりというものを費やしている方にお会いします。僕の基本的な興味は人の生き方や考え方というところにあるので、モノを通してそれが現れてくる瞬間というのが、写真をやっていて面白いところなんですね。なぜ盆栽であったりワインであったりというものに価値を見出し、尋常ならざる熱意をもって収集するのか?それは誰にでも理解されるものではないとは思いますが、それがどういった価値観に基づいているのかということが少しでも写真に反映され、表現できた時が、写真をやっていて面白いなと思えたり、次の作品へのモチベーションにつながる瞬間です。
打林:大和田さんはモノとしての写真の美しさや価値というものを、大学時代に細江英公さんの授業を通じて確かなものにしていったと書かれていました。いま、大学や専門学校の教員もされていますが、モノとしての写真の価値や魅力をどのように若い人に伝えていますか。
大和田:その魅力に気づくかどうかというのは、やはりその真の美しさに触れる体験があるかどうかによると思うので、僕はプリントが好きで、それができた時の感動があるから写真をやり続けられているし、写真の真価はプリントにあると思っているので、そういった情熱や考えを正直に学生に伝えるようにしています。それと同時に、それが僕にとっての写真であって、あなたたちにとっての写真はなんだろうかという問いかけをして考えてもらうきっかけを作るようにしています。
打林:いろいろな手法、見せ方というのが今回の個展にも明確に現れていると思います。繰り返しになるようですが、ある種の視覚に対する野心的な試みが形成されていく過程を鑑賞者が追っていけるというのは、展覧会というものがあってこそだという気がします。
大和田:僕自身、見え方や視覚をコンセプトそのものにしていることが多いので、今回は特にそれを加速させた展示になっていると思います。あらためてですが、寄って見たり引いて見たり、プリントの面白さというものを体感していただけたらなと思います。
■写真家
1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「reGeneration. 50 Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。主な作品に、盆栽をモチーフとした『FORM』、ワインの色を捉えた『Wine Collection』等。
2011年日本写真協会賞新人賞受賞。東京工芸大学芸術学部非常勤講師。
日本写真芸術専門学校講師。
■雑誌『写真』 エディトリアル ディレクター
写真史家・写真評論家。1984年生まれ。2010~2011年パリ第Ⅰ大学招待研究生。日本大学大学院芸術学研究科博士後期課程修了。主な著書に『絵画に焦がれた写真-日本写真史におけるピクトリアリズムの成立』(森話社、2015年)、 『写真の物語-イメージ・メイキングの400年史』 (森話社、2019年)など。
■写真展開催概要
■写真展連動 オンライントークイベント