- 製品情報
-
- 個人・家庭向けプリンター
<用途から選ぶ>
- <カテゴリーから選ぶ>
- 法人・業務向けプリンター・複合機
- 産業向けプリンター・デジタル印刷機
- 消耗品
- 産業向け製品
- <インクジェットソリューション>
- 個人・家庭向けプリンター
エプサイトギャラリー公募展・epSITE Gallery Award
受賞者インタビュー
阿部 祐己さんは独自性に富んだ作品を、「こだわり」と「質」をもって作品化する、職人気質の写真作家だ。
そうした傾向は、第2回epSITE Exhibition Awardを受賞した「Trace of Moutain」にも見られる。
といっても、本人と対話してみると、気難しさはなく気さくで話上手で彼の経験談などに引き込まれていく。
ここでは、「Trace of Moutain」が、どういった経緯で生まれ、どういったコンセプトで展示されたのか、加えてepSITE Exhibition Awardを受賞しての感想などについて伺った。
――阿部さんが写真を撮り始めたきっかけは?
阿部さん:最初はコンパクトデジタルカメラで身近な自然風景などを撮っていたのですが、2007年頃から一眼レフを使って本格的に撮るようになりました。その後、仕事をやめて専門学校に通うことになるのですが、仕事をやめてから1年ほどは、北海道から九州まで日本全国を周って撮影していました。
その中で、美瑛や阿蘇などの広々とした場所に惹かれていることに気付き、地元長野の霧ヶ峰が思い浮かびました。霧ヶ峰ならば、定期的に通えてじっくりと作品制作ができると思い、2009年以降、この山での撮影がライフワークになっていきました。
今回の作品は、この山で撮り続けている作品の中から、2012年以降に撮った写真で構成しています。
――「Trace of Moutain」のコンセプトや制作意図は?
阿部さん:最初は「広々とした場所で撮りたい」という漠然とした思いがきっかけでした。
あるとき霧ヶ峰で行われている「野焼き」の存在を知り、何年か野焼きを撮りに通ったのですが、ある年に起こった山火事の際に昔の人が火事を防ぐために作った防火帯が残っていることに気付き、私が知らない歴史が山(Moutain)には、まだまだあるのではないかと思い、「人間の痕跡(Trace)」をコンセプトに撮影するようになりました。
霧ヶ峰で撮っていることもあり「一般的な風景写真」だと思われることも多いのですが、私の撮り方は“何か”に反応した瞬間にシャッターを押す、いわゆるスナップ撮影の手法で撮っています。
今回の作品は、現在の霧ヶ峰をスナップで撮影し、昔の痕跡を辿るという方法で制作しています。
阿部 祐己 「Trace of Mountain」より
――今回、エプサイトの公募に応募したきっかけは?
阿部さん:写真集を出す予定があったので、エプサイトで展示を行うことができたら、ベストなタイミングで写真展ができるという思いがありました。
また、展示期間が2週間と比較的長く、若手の写真家を取り上げる場合でも、見応えのある質の高い展示が行われているという印象があり応募しました。
自主的に会場を借りて、自分の名前だけでお客様を集めるというのは、金額的に難しい場合が多いのも事実です。
そうした中でエプサイトで展示できたことは、本当に嬉しかったです。
――今回の展示でこだわった点はありますか?
阿部さん:正面の壁面に大きな1枚の写真を配置し、その写真を軸に左右で対になった作品を組み合わせて展示するという方法を用いました。時間をかけて構成を練り、配置を考えたことで、内容的に満足できる展示になりました。
プリントに関しては、最終的にはエプサイト内のラボで行いましたが、自宅のエプソンPX-5002でサンプルプリントを作って、それを元に仕上げています。
応募時はエプソンの「画材用紙」を使ったのですが、展示作品は使い慣れた「フォトマット紙」を使っています。紙選びは試行錯誤しましたが、最終的には色ノリを重視してフォトマット紙にしました。
いちばん大きな写真はMC画材用紙という紙ですが、これも使ってみて白い部分の良さが際立った印象で、今回展示してみての大きな気付きの1つでした。
――今回の受賞作に限らず、阿部さんの作品はプリントの質が高くて美しいですね。
阿部さん:ありがとうございます。
今回の作品を含め、エプソンの「フォトマット紙」を、ここ10年くらい使ってプリントしているのですが、最初はコントラストが強過ぎるなど、なかなか思うようにプリントできませんでした。
しかし、トライアンドエラーを繰り返すなかで、どのように調整したらどういった仕上がりになる、というのが感覚的に身につくようになってきました。決して高級な紙ではないと思うのですが、色ノリが良く、展示などにも最適な仕上がりにできるようになってきました。
――展示を終えての感想や、今回の展示で得られたものはありましたか?
阿部さん:展示を終えた時点では、ほっとしたというのが正直な感想です。
プリントや展示、写真の並びは、ベストなものになったと思います。
来場者には、プリントの良さなどの技術的な評価や写真から伝わる雰囲気を評価いただけるといったことが多く、単に写真としてだけでなく、アートとして見ていただけたという点で非常に嬉しく思いました。フランス車が集まっているイベントの写真を飾ったのですが、写っているクルマに興味を持たれる方が多かったのは面白かったですね。
――今回受賞してみての感想は?
阿部さん:霧ヶ峰のシリーズは、作品としては最初に手掛けた写真ということもあり、それを北島先生や小高先生にご評価いただけたというのは、非常に名誉なことだと感じています。
また、賞を受賞することで、作品が記録に残っていくという意味でも嬉しく思います。
個人的には、賞金でようやく機材の買い替えができるかな……と(笑)。今メインで使っているカメラは、26万回以上シャッターを切ってしまって満身創痍なので。いずれにしても、今回いただいた賞金は、今後の制作活動の資金として活用したいと思います。
――阿部さんにとっての写真表現とは?
阿部さん:「現代の記録者」としてスナップを続けていくことで、面白さや可笑しさ、シュールさ、美術的な美しさなどが表現できるものだと考えています。
例えば、都心であっても、建設現場などの広い場所を定点撮影で記録していくと、わずかな変化に気付いたり、”現代の表情”が引き出せたりします。
また、そうした場所だと地層や地表に惹かれますが、その中で変化していくものに注目して撮っていることが多いですね。私の作品の場合は、あくまで記録写真という前提がありつつも、その中でほかの誰かに面白いと思ってもらえるものを目指しています。
私は、後の世に残っていく写真とは、そうした写真ではないかと考えているのです。
よく見ると、こんなものが写っている!という位、じっくりと見てもらえる写真を残したいですね。
――最後に、今後の目標があれば教えてください。
阿部さん:写真集も売っているのですが、できればオリジナルプリントを買っていただけるような作家になれたらと思います。
日本国内では、なかなか写真プリントを買うという文化が育っていないので、海外でということになるのかも知れませんが、現在の1つの目標になっています。
写真だけの展示ではなく、絵画や現代美術の作家とグループ展を行うことも増えてきました。もっと自分の作品を認知してもらえるよう、機会があれば積極的に展示を行いたいと思います。ほかにもいい作品があるので、新しい写真集を作りたいという気持ちもあります。
それと、写真のカテゴリーとして、私が撮っているような、いわゆる風景写真ではない、ランドスケープ写真のジャンルが日本でももっと確立できたらいいなと思います。お仕事の撮影では、人物撮影が多くなってきました。
いつか、今回の作品のシーンを背景にアイドルのCDのジャケットなどを撮ってみたい!という野望もあります(笑)。
阿部さんのオリジナルプリントを見ていると写真集などの印刷物では表現しきれないほどの情報量に圧倒される。
そこで、氏に写真展と写真集の関係性を聞いてみると、音楽になぞらえて臨場感のある“ライブ”と記録としての“アルバム”だという答えが返ってきた。
これから、彼の“ライブ活動(写真展)”がどのような方向に向かい、どんな“アルバム(写真集)”が作られていくのか、今後もその着眼点や作品の質に注目していきたい作家の1人だ。