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エプサイトギャラリー公募展・epSITE Gallery Award
第3回「epSITE Exhibition Award」
受賞 柴田 慶子インタビュー
柴田慶子さんは、学生時代から関心があった民俗学の聞き取りの手法を取り入れつつ、伝承や口伝といったものに潜む“何か”を作品化し続けている。それは、1990年代に氏が行った写真展から続くテーマではあるのだが、前回の写真展から約10年間が空いている。そうした中で行われた「聞き写し、春日」は、氏の中でどういった意味を持つのか?さらに、epSITE Exhibition Awardを受賞しての感想などについても伺った。
——柴田さんが写真を撮り始めたきっかけを教えてください。
柴田さん:写真を見るのは元々好きで、ドキュメンタリー系の作家の写真展を見たり、写真集を見たりはしていました。また、記録として写真を撮ることはありましたが、意識して写真を撮るようになったのは結婚してからだと思います。技術的には、夫が写真記者なので夫から基礎的なことは教わったものの、その後は独学で、1995年前後からです。先に撮りたいテーマがあって始めたので、誰かに教わって撮るというスタイルではありませんでした。ただ、写真を始めて比較的すぐにメーカー系ギャラリーなどに応募したところ、審査を通過することができ、先生方のご評価や展示の機会を得られたことは、その後も撮影を続ける1つの励みになったと感じています。特に“意味のない(気配を写した)写真がいい”というご評価をいただき、その後の作品作りの方向性が決まったように感じます。
——その後少しブランクが空いているようですが、epSITEにご応募いただいたきっかけは?
柴田さん:写真展というカタチでは10年程度空いているのですが、撮影はライフワーク的に続けていて、私家版の写真集などを作っていました。写真展は開いていませんが、村には通い続けていましたし、いろいろな方法を考えた時期だと思います。ただ、その間も含めて10年間撮り続けた作品がたまっていたり、撮り続けている集落が世代的に途切れつつあったりしたので、展示をするなら、今のタイミングだろうと考え、公募に出してみることにしました。epSITEは、普段から使っているプリンターやスキャナーなどのメーカーで、プライベートラボを以前使用したことがあり、設備が整っているという安心感があったこと、加えて、北島先生や小高先生にご評価いただけるということもあって応募させていただきました。
——「聞き写し、春日」の制作意図を教えてください。
柴田さん:まず、今回の制作にあたっては、先ほどもお話した、被写体としている集落の世代的な問題がありました。タイトルにもあるように、聞き取り調査がベースになっている作品なので、聞き取り対象の世代が1つのポイントになってくるのですが、1990年代と2000年代の時点では、まだまだ早いというか、対象者も私も若かったのですが、現在は対象も私も年齢を重ねて、集落の人口も減ってしまいました。そのため、このタイミングで発表しておく必要があると感じていました。制作意図というか、テーマとしては「古代の光」というのがあります。かつてあった「春日村」の人々の昔語りを聞いて、その記憶、あるいはそれより前の記憶を、半ば無意識に撮った中から見つけ出したり、場合によっては作り出したりするといった写真です。
柴田 慶子 「聞き写し、春日」より
——今回の展示でこだわったポイントはありますか?
柴田さん:今回の展示では、自分の中の記憶を再現したいという思いがあり、それにはスライドで映す方法が合っていると感じてプロジェクターを使った展示を組み合わせた点は、1つこだわった点です。このプロジェクターで見る行為は、写真集を作る場合などで写真のセレクトを行う際に使う方法でもあり、この10年ほどの間に行ってきた写真集作りを生かした表現でもあります。このほか、会期中に映像を重ね合わせたり、合成したりという写真について、ご質問をいただくことが多かったのですが、これらについては、かなり感覚的なもので、日常的に私が使っている手法をそのまま使っていて、強い表現意図といったものがあるものではありません。もう1つ今回の展示でこだわったポイントとしては、プリント用紙があります。これまでも和紙などを使ってプリントすることはあったのですが、今回の展示用に出力する中で用紙の重要さに気付くことができました。これまでは、写真ごとに合う紙が違うと感じるケースが多く、しっくりこなかったのですが、今回Velvet Fine Art Paperで統一することでしっくり来る展示にできたのです。
——今回の展覧会を通じて得たものはありますか?
柴田さん:短期間で多くの方の反応をお伺いできたのはよかったと思います。しかも、写真展を見に来ていただいた方だけでなく、たまたま横を通りがかった方などにもご覧いただけて、ご意見やご感想、ご評価をいただけたのは、非常に嬉しく参考になりました。特に色の良さや「魂(精神性)」について評価いただけたのは嬉しく感じました。ただ、今回はテキストが非常に多い展示だったのですが、テキストが多すぎる、文と写真の内容が離れてしまっているといったご指摘もいただきました。とはいえ、懸命に読んでくださる方も多く、じっくり読んでいただけた方には、その内容も楽しんでいただけたようです。もっとも、読む方と読まない方がはっきりと分かれるので、今後は読まない方にどのように伝えて行くかも考える必要があると感じました。
——今回受賞しての感想はいかがですか?
柴田さん:展示させていただくだけでも価値のあるもので、課題もありますが、審査員の皆様のご評価をいただけて光栄に感じております。今回の展示では、約10年ぶりの写真作品の展示ということもあり、いくつかの反省点もございましたが、展示する楽しさや面白さを思い出したり、新たに面白さを発見したりすることができ、可能ならすぐにでも次の展覧会を開いてみたいと思えるものでした。今回の貴重な経験を次の展示に繋げて行けたらと思っています。
——柴田さんにとっての写真表現とは?
柴田さん:今回の作品のテーマは、長く撮り続けているものなので、すでにライフワークといえるものになっています。そのため、多くの写真は村の記録写真です。ただ、その時々に写る無意識的なものが少なからずあり、そうしたものを大切にして作品化しています。単なる記録や記憶に限らない、そうした表現が可能な点が写真表現の1つの面白さだと感じています。
——最後に今後の目標があれば教えてください。
柴田さん:今回の展示を通じて、ほかのエリアでも同じように作品を撮ってほしいというご要望を頂くことができました。なので、ご要望をいただいたエリアはもちろんですが、ほかの場所でも同様の手法で写真を撮れたらと考えています。また、今回はプリントとプロジェクターを組み合わせての展示でしたが、プリントの大きさについても、もう一度考えたいです。プロジェクターだけの展示方法といった展示の方法論や技術も身につけられたらと思います。
(まとめ)
柴田さんの展示は、内容はもちろんだが、壁面に写真を展示しつつ、正面にプロジェクターでスライドショーを、中央に展示台を置いて、写真と文字を組み合わせた資料をという展示方法がユニーク。「話の聞き取り」をテキスト化して併せて展示するなど、作品にドキュメンタリー的な実感と感触を与えることで、感覚的な要素を持つ写真・映像表現との良好なバランスが保たれていた。今後も独自のテーマ性を持って、多様な表現方法を追求していってほしい作家だ。