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エプサイトギャラリー公募展・epSITE Gallery Award
第4回「epSITE Exhibition Award」受賞
フジモリメグミ氏 インタビュー
フジモリメグミさんは、美術系高校在校中にアメリカの写真家ナン・ゴールディン氏を知る。
そのプライベートすらもさらけ出す氏の作家としての姿勢に衝撃を受けたり、世界報道写真展で展示された作品の持つストレートな表現力に気付かされるなどの体験のなかで、写真作家を志すようになった。その後、日本写真芸術専門学校に進学し、在学中から作家活動を開始したという。当初はコンセプチャルな作品を制作していたが、2011年頃からは「誰かの何気ない日常」を切り取る作品が増え、今日に至っている。第4回「epSITE Exhibition Award」受賞写真展「aroundscape」は、同じ日常でも誰かの何気ない日常ではなく、自らの日常を捉えた作品だ。そこに至った経緯や撮影意図、epSITE Exhibition Award受賞を受けての今後の目標などについてうかがった。
——フジモリさんが、今回epSITEの公募に応募されたきっかけは何だったのでしょうか?
フジモリさん:ギャラリーの公募は審査員の先生方が比較的長い期間担当される場合が多く、場合によっては選ばれる作品も、ある程度の傾向が見られるケースが少なくないと思います。
その点、epSITEの公募はさまざまなジャンルの選考委員が定期的に入れ替わるので、多様な作品にチャンスがあるように思います。そうした公正な審査に私の作品を出した場合、どういった評価がなされるのか、という好奇心やチャレンジしてみたいという気持ちがあり、応募しました。また、今回の審査員である上田義彦先生に作品を見ていただきたいという気持ちもありました。本作は取り組み始めて2~3年で、公募に出した時点での撮影期間は1年半ほどでした。私としては撮影期間が短めの作品で、少し不安がありました。しかしながら、今回ご評価いただけたことで、今後も取り組み続けて行くべきテーマだという、後押しをしていただけたように感じられて嬉しく思っています。
——これまでにフジモリさんは、数多くの写真展を開催されていますが、それらと本作の違いは何でしょうか?
フジモリさん:本作の源流となる作品は、2011年以降に撮り続け、2017年に写真集としてもまとめた「apollon」のシリーズになります。2011年の東日本大震災は自分の人生にとって、最も衝撃的な出来事でした。自分は写真作家なのだから、写真で何かをしたいと考えたのですが、被災地の状況を目の当たりにした当初は、写真で表現することの無力さを痛感しました。
一方で、震災後に従事した津波の被害にあった写真を救出するボランティア活動中に見た何万枚ものファミリー写真と、そうした大切な日常の思い出の写真をひとかけらでも良いからと必死に探しに来た人々に出会うことができて、写真の力を強く再確認することもできました。
その体験から「誰かの何気ない日常」を記録することこそ、写真そのものが本来持つ力を引き出すことができるのではないかと考え、様々な地域に出向いて行って他者の日常を数年に渡って撮り続けた作品が「apollon」のシリーズです。いわば従来作は他者の視点で見た日常であった訳ですが、それに対して本作は、私が普段見ている日常に範囲を狭めて撮影してまとめたもので、従来とは少し視点を変えた、新たなシリーズの第1作目といえる作品です。
——では、本作の制作意図はどういった点にあるのでしょうか?
フジモリさん:あえてテーマを挙げるとしたら、「繰り返される退屈な日常の中にこそ、面白いことがある」といったことになると思います。こうしたテーマ自体は従来の作品から踏襲しているのですが、本作では撮る範囲を「地元」「今住んでいる町」「仕事先」といった、極めて狭い範囲に絞って、私のプライベートな日常といえるシーンを切り取るようにしています。
実は、2017年から2018年にかけて、生まれて初めて実家を出て引っ越しをしたのですが、そうした転機をきっかけに、自身の気持ちや自らのものの見方に変化が出てきました。従来とは異なった視点で撮った作品でもあります。その結果として前に挙げたテーマが、より強く感じられる作品にできたのではないかと思います。ただ、他者の日常を撮っていた従来作と、プライベートを撮っている本作は、撮影中に感情の起伏の差があったり、身近な人物を撮ったりといったことがあったので、それらは展示計画時のセレクト段階で省いて、制作意図とのズレやブレを防ぐように注意しています。
フジモリメグミ 写真展 「aroundscape」より
——やはり、写真のセレクトや組み合わせは、かなりこだわられたのでしょうか?
フジモリさん:写真のセレクトや組み合わせの編集作業は撮影以上に難しく、時間もかかります。応募段階では40点程あったものを最終的な展示では20点に絞っているのですが、作品を並べてみて取捨選択しては組み合わせを考えて……という作業を何度も繰り返すという試行錯誤が続きました。40点あった段階では様々な要素が入り混じっていたのですが、面白い要素が1点に集中していて“見るべき答え”が明確すぎる写真をあえて外し、撮り手である私と見る人の中間に答えが浮かび上がってくるような写真を選んだ結果、ある意味で統一感の感じられる展示にできたと思います。もう少し詳しくいうと、やや曖昧さが残る写真で、構図的にも見るべき点がいくつもあって1枚の写真の中で視線を誘導的に動かしながら見続けられるようなもの、情報量が多く、場合によっては一瞬何が写っているのか分からないような写真を意図的に選んでいます。
——展示そのもので、こだわった点はありますか?
フジモリさん:前述の写真点数とプリントのサイズ、プリントする用紙の3つは特にこだわったと思います。写真点数は、応募段階で多めだと自認していて、まだ削ぎ落とせるとは思っていました。私が撮ったものや見てきたものをそのまま体感できる状態でepSITEのスペースに落とし込むには、どういったサイズ感がいいのかを考えた結果、今回の枚数とサイズになりました。大きくプリントして細かい部分までじっくりと鑑賞してほしいという思いもあり、比較的スペースが広めなepSITEの特徴を生かした展示ができたのではないかと思います。これについては、自分自身でも、大きくプリントすることで気付いた点も少なからずありました。プリントする用紙については、色がニュートラルに再現されること、照明などの光の反射が少ないことの2点を重視し、エプソン純正紙のプロフェッショナルフォトペーパー<厚手半光沢>を選択しました。同様に光の反射を防ぐため、額のガラスも外しています。
——今回の展覧会を終えての感想、展示を行ったことで得られたことなどがありましたら、教えてください。
フジモリさん:会場に来ていただいた方の感想が、「凄く良い、よく分かる」というものと「よく分からない」というものに大きく2分されていたのが面白く感じました。特にこれまでの作品を見ていない、初見の方にとっては、少し分かりにくい部分のある作品だったようです。とはいえ、本作自体が分かりやすさを追求したものではなく、分かりやすい写真をあえて外して構成していて、じっくり見て答えを導き出してほしいといったタイプの作品なので、ある意味成功だったのだと思います。実は作品を展示するまで様々な不安が拭えなかったのですが、額装した作品を壁にかけた後にあらためて空間全体を見渡したときに、これまでで、いちばん納得の行く展示に仕上がっていると感じました。以前所属していた自主ギャラリーを中心に、まるで訓練や修行でもしているかのように数多くの展示を行ってきたのですが、今回、その成果が出たのではないかと感じています。今後、本作を撮り続けて行く上での道筋が見える展示だったと実感しています。
——フジモリさんにとっての写真表現とは?
フジモリさん:自分自身の内面や社会などを知るきっかけになるもの、写真を撮る、あるいは見せることで多くの人と関わり、自分の知らない新たな価値観を知ることのできる手段の1つだと思います。仮に作品を作った後に成果が出なかったとしても「ものを作りたい」「写真を撮りたい」といった動機や気持ちを大切にして行けば、自然と人との関りが生まれて、人や社会との関りが生じることはとても大切なものだと感じます。
——今回の「epSITE Exhibition Award」
受賞を踏まえ、今後の活動や挑戦してみたいことなどがあれば教えてください
フジモリさん:まず今回の作品は、これからも撮り続けて、しっかりと時間をかけて向き合って行きたいと思っています。というのは、私の作品へのアプローチの1つとして、同じテーマで撮り続けて行くことで、次に行うべきこと(テーマ)が見えてくると考えているためです。今回の受賞は、こうした取り組みの大きな励みになると思います。また、私は4カ月に1度といったような短いスパンで作品をアウトプットすることで、写真に対するモチベ ーションを高めておきたいと考えています。2019年までは、所属していた自主ギャラリーなどで展示を繰り返していたのですが、残念ながらギャラリーが解散してしまったこともあり、現在、ほかの仲間と共に新しい自主ギャラリーの立ち上げ準備を進めています。それらが上手く稼働し始めたら、今回の作品に限らず、現在撮り進めつつある別の作品についても展示して行けたらと考えています。