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エプサイトギャラリー公募展・epSITE Gallery Award
第5回「epSITE Exhibition Award」受賞
王 華氏インタビューコメント
王 華さんは、中国の美術大学で美術全般を学んだ後、渡欧。イタリアで美術への造詣を深めた上で、東洋的な感性に基づく写真を学ぶため、日本の美術大学で修士号を取得、というユニークな経歴の持ち主だ。写真作品制作には、大学在学中からピンホールカメラを活用。独特な感性で原初的な写真表現を追求し、オリジナリティ溢れる魅力的な作品を制作している。第5回「epSITE Exhibition Award」受賞写真展「Box of Dreams」は、そうした作品の現時点での集大成といえる展示であった。ここでは、今回の展示の意図や展示を行っての感想、今後の目標などについてうかがった。
——王さんが長年取り組まれているテーマでもある「Box of Dreams」とは、どういった作品でしょうか?
王さん:タイトルのBoxはカメラ、Dreamsは私の夢あるいは記憶を意味します。記憶の中にある「いつか見た風景」を写し出したいという気持ちで、撮り続けている作品です。撮影にはピンホールカメラを使用していますが、現代的なカメラが登場する以前から存在する、原始的な技法であるピンホールによる描写は、曖昧なぶん撮影者の美意識や感情が入り込むように感じます。それにより、被写体は現代の何気ない日常の生活や風景でありながら、過去の時間や記憶、夢の中の時間を再現できるようで、作品のテーマに合っていると思います。
——本作は、アートの視点から写真そのものを捉えようとしているように見えますが、何か意識していることはありますか?
王さん:私は、写真は経験できる記憶、体験できる美意識を提供する器(うつわ)であり、私と作品を見る人の意識の共感を呼び起こせる媒体だと考えています。ピンホールカメラを使用しているのも、そうした写真の持つ独特な力を強く引き出せると考えているからです。現代的で明確な描写の写真も良いと思います。ただ、無数の写真や映像が世に溢れている今の時代、ともすると一瞬で消費されてしまうようにも感じます。一方、ピンホールによる写真は、その曖昧さの残る描写などにより、被写体と撮影者(私)の間にある感情や感動、記憶が写り込む余地、あるいは作品を見る人が、その行間のようなものを読む余地があると感じます。先日、ある博物館で2000年前に描かれたという絵を見たのですが、私は、その絵を見て強く感動しました。そして、現代の写真やアートは、そうした長い時間に風化せず耐えられるか考えさせられました。もちろん、これから“2000年後”は分かりません。そこでまず、私も含めて見る人が“20年後”にも良いと思えたり、記憶に残っていたりする、簡単には消費されない普遍的な作品を残したいと思いながら、制作を続けています。
——王さんが、今回epSITEの公募に応募されたきっかけは何だったのでしょうか?
王さん:作品展示は、大学の卒業制作展以来で約4年ぶりでした。その間に写真はピンホールで撮ったシリーズ以外のものも含めると、かなりたまっていて、そろそろ作品をまとめて展示したいと考えていました。その折、丸の内に新しくできたepSITEギャラリーで写真展を見る機会があり、スペースの広さや雰囲気のよさに魅かれ、ここで展示してみたいと考えるようになりました。加えてepSITEの公募は、展示期間が2週間と長めで、ジャンルにとらわれない様々な作品が選ばれていることにも魅力を感じて応募しました。
王 華写真展「Box of Dreams」より
——今回の展示では、何かこだわった点はありましたか?
王さん:プリントのサイズや質感など、展示したときの作品の流れや、どういった印象に見えるかといった点にこだわりました。サイズについては、今回は大きなプリントが多かったのですが、そのなかに小さめのプリントを加えて、視覚的に変化のある展示を目指しました。結果、大きなプリントでは作品への没入感を、小さなプリントでは、のぞき見るような楽しさを演出できたと思います。そのために、小さな写真はフレームをボックス型にしてテーマに合ったものに仕上げたり、ディテールを見せたい写真をできるだけ大きくしたりといった工夫もしています。さらに、1枚1枚の写真だけでなく、全体としての構成(流れ)も意識しました。epSITEは壁面が大きく分けて4面ありますが、それぞれの面で構成するだけでなく、壁の角を介して隣り合った面を見たときにも関係性が感じられ、違和感のない構成になるようにプランニングしました。モノクロやカラー、撮影した場所といった物理的な違いに縛られず、見ていて心地よく感じる流れになったと思います。用紙については、すべての作品をエプソンのPX/MCプレミアムマット紙ロールで仕上げました。エプサイトの照明はスポットライトのため、光沢紙を使用すると光を反射しやすいこと、また紙の質感を味わってもらいたいと考えていたことから、この用紙をセレクトしました。思っていた以上に素晴らしい仕上がりになり、作品内容にも合っていて本当に良かったと思います。特にモノクロプリントは、銀塩写真用の厚手バライタ印画紙に近く、好みの仕上がりになりました。今回展示したような大判プリントは、銀塩写真用のバライタ印画紙でプリントするのは難しく、質の面でも今回の用紙にインクジェットでプリントするのがベストな選択だと思います。
——写真展を終えての感想はいかがでしたか?展示を行って得られたものはありましたか?
王さん:今回は久しぶりの展示で、しかも初めての個展でした。そのため、無事展示できて良かったというのが第一の感想です。展示することで、自分自身でも作品についてこれまで以上に理解や整理ができ、客観視できたことで、これまでに味わったことのない新鮮な感覚を味わうこともできました。会場では、多くの方々に作品を見ていただけて、数多くの感想を聞くこともできました。感想には、撮影時の気持ちが伝わってきたといったものや、作品の持つ雰囲気が好きだといったもの、出身地の風景を思い出したといったものなどがありました。これは、作品についての新たな発見や改善点を見つけ出すきっかけになっただけでなく、今後の作品制作の励みにもなりました。そのほか、画面で見る写真とプリントの写真の違いを改めて認識できました。紙にプリントすることで作品に込めた美意識や感情などを強く表現でき、そのためには作品に合った紙を選ぶことも重要だという点に改めて気付かされたのも、今後に向けての収穫でした。
——今後の活動や挑戦してみたいことはありますか?
王さん:今回の展示では、プロジェクターを使って、一般的な35㎜カメラで撮影した作品を投写するという試みを行ったのですが、この作品についても、来場者の方から多くの反響をいただけました。今後は、それらを参考にしつつ、35㎜カメラで撮影した写真も作品化して、展示できたらと考えています。ただ、すでにそれらの作品のブックなども作り始めてはいるものの、個人的なスタンスとして自分が納得できたら……という条件が付くので、きちんと考えていきたいと思います。そうしたことも含め、今後はこれまでに取り組んできたものだけでなく、さまざまな表現方法を試し、探り続けられたらと思っています。