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エプサイトギャラリーは、2021年第2期公募展応募作品の中から、最も優れた作品として、本田 光さんの『うきま』を選出、第2回 epSITE Gallery Awardとして決定いたしました。
第2回 epSITE Gallery Award
『うきま』
本田 光 | Hikaru Honda
略歴:
広告・印刷会社で8年営業職で勤務した後、日本映画学校へ
フリーシナリオライターを経て、現在会社勤務しながら、舞台撮影、写真作品・手製本による写真集制作を継続
写真歴:
2013年 渡部さとる氏主催Workshop2Bに参加
2014年 六甲山国際写真祭ポートフォリオレビュー参加
2015年から毎年、Tokyo8×10 EXHIBITION グループ展に参加して作品展示
選考委員コメント
■上田 義彦氏 (写真家 多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授)
今回の公募で選出された5名の方の作品は、実力的にはかなり拮抗していた。そうした中で本田さんの作品からは、自分達の時間を写真で残したい、大切な時間を記録しておきたいという強い願望のようなものが感じられた。本作は、写真というメディアの一番大切な、時間をフリーズし、そこにあった事をまるごと写し撮りそのまま残す、といった特質を自分達2人のために大事に使ったという印象を受けた。身近なことでありながら写真を撮影して残しておかなければ忘れてしまうような何でもない時間、同時にそれは、二度と見ることができないかけがえのない瞬間、それを捉えることに成功している。強く目を引く写真が数多くそろい、見応えのある作品になっている。
■速水 惟広氏 (T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO(東京国際写真祭)ファウンダー)
公募で選出された作品は、いずれもそれぞれ異なる魅力のある作品であり、かつ実力が拮抗したため、グランプリを選ぶのが非常に難しい審査だった。その中で、本田さんの『うきま』から感じた、「暖かさ」あるいは「温もり」のようなものは、昨今のコロナ禍という状況もあって、徐々に審査員である我々を、ゆっくりとでも確かに引き付けていったように思う。本田さんが時間をかけて丁寧に撮られた日常の風景。淡々と過ぎて行く時間の中で置き換えることの出来ない瞬間をとらえるという写真ならではの魅力が積み重なった作品だと感じた。
第2回「epSITE Gallery Award」受賞
本田 光氏インタビュー
本田 光さんは、広告・印刷会社を経て、退職後、映画・映像系専門学校に通い、フリーのシナリオライターとして活躍したという経歴の持ち主。写真は、その後に渡部さとる氏のフォトエッセイ集『旅するカメラ』に出会い、本格的に始めたという。使用機材は大・中判のフィルムカメラが中心で、ポートレートなどの奥行きの感じられる描写の作品が魅力的だ。ここでは、日頃行っている写真活動、今回の作品のテーマや展示の構想などについて伺った。
共感できる物語を紡ぎ出すことが作品制作の目的であり目標
——本田さんは、日頃どういった写真の活動をされていますか?
本田さん:作品発表の場としては、2015年頃から「東京8×10」というグループに加わって、毎年実施されている写真展に8×10で撮影した新作とテキストを組み合わせるかたちで参加しています。私が個人的に撮りたいのは主にポートレートなのですが、舞台撮影を行わせていただく機会があり、俳優さんにお願いして撮らせていただくことも多くなってきました。
——応募作品含め、大判や中判で数多く撮られていますが、その理由は何でしょうか?
本田さん:フィルムに拘っていると言うわけではありませんが、最初にこの作品のシリーズを撮り始めたのが、中判フィルムカメラだったことがまずあります。その後、大判カメラも使い始めると、写真になるまでの工程の多さのために、撮影行為自体が被写体と私とのコミュニケーションイベントの一つのようになって、かえってそれが撮り続けることのモチベーションになりました。また、セッティングが済んだらファインダーは確認できず、微調整は諦めなければなりません。そのことが、写真の出来上がりに、被写体と私の一定の距離感を生んでくれます。私小説のようなこの作品のシリーズには、そういう距離感が大事なのではないかと感じています。
——本田さんが写真を撮る上でのスタンスや目的などがあれば、教えてください。
本田さん:私にとって、写真作品を作ることは、1本の映画を撮るのと同じような感覚があります。特に写真集にまとめることは、写真で物語を作り出すためのプリミティブな行為だと感じます。自分自身はもちろん、写真を見ていただく人にも物語性が感じられ、共感いただける作品を制作ができたらと思っています。
約10年撮り続け、作品の本質に大きな変化がないことを再認識
——エプサイトギャラリーの公募にご応募いただいた、きっかけを教えてください。
本田さん:印刷会社に勤めていた頃から、仕事で写真家の方にお会いする機会もあり、写真を学んでみたいと思うことが何度かありました。そうした中、渡部さとる氏の本に出会い、氏のワークショップに参加して写真を学んだことが、私に大きな影響を与えてくれました。写真展示の面白さを学んだのも、そのワークショップの卒業制作グループ展でした。この作品のシリーズもその時に展示したものがもとになっています。
また、そこに通った人たちとの出会いを通じて、大判カメラや写真集制作へと私の作品世界が広がっていった経緯もありますし、そうやって出会った人たちの中には、新宿にあった頃のエプサイトで展示をした人もいます。そういうのを見て、いつか私もという思いはずっとありました。
——今回の作品について、その内容やテーマを教えてください。
本田さん:この作品は、妻との暮らしを、私たちが暮らす団地を背景に約10年間に渡って撮り続けてきた、私小説的な内容です。結婚して暮らしを共有することを知り、それが大事だと思うほどに、失うのが怖いと言う気持ちが芽生えました。写真に残すという根本の動機にはまずそれがあります。また、主たる被写体は妻なのですが、背景となる団地も、子どもの頃、団地で育った私にとっては思い入れのある場所です。しかし近年、団地は取り壊しや建て替えが進み、昔からのもっと表に向かって人の暮らしが共有されていることを感じられる姿を留めている建物は少なくなってきました。そうしたことを否定する気持ちはありませんが、これも失うのが怖いと言う気持ちにつながっています。このように人も建物も街も変化する無常の存在であり、人は最終的に孤独であるといったことも作品テーマの1つになっています。
タイトルの『うきま』と言うのは川に挟まれた私たち夫婦が暮らす街の地名が由来ではありますが、浮かんで消える人の記憶という意味もその中には込められています。
時の流れと同じように川の流れも同じように見えて変化していきます。10年以上写真に撮りためたことで、変わっていないと思っていても変わってしまったものと、目には変わったように見えて、本質は変わっていないものがある、と言う事が見えてきました。
写真を並べ変えたりまとめたりしていると、どちらが古い写真でどちらが新しいのか時系列が曖昧で、人の記憶とはそんなものだな、でもこの記憶の欠片が自分にとっては大事なものなのだな、と感じています。
本作を最初にシリーズにして展示した時のキャプションの文中に「あなたはまだ、本当に大事なものを失ったことがないのよ」という妻の言葉が出てきます。この言葉の意味するところやキャプション全体の内容は、約10年経過した現在でも、本作の変わらない本質、あるいはテーマなのだと改めて感じています。
——今回の展示に向けて、構成や挑戦してみたいことなど、考えていることはありますか?
本田さん:構成に関しては、今回の作品はベースとなる写真集がありますので、その内容を生かしつつ展示用に再編集する方向でイメージしています。挑戦してみたいこととしては、均一な大きさで並んだプリントを見てもらうのではなく、本作の"舞台"であるかつてあった形の団地とその暮らしをリアルに体感してもらえるような、見にきていただいた方の記憶のどこかに響くような展示ができたら面白いだろうなと考えています。現時点では、その方法などは未定ですが、私の視点から見た「妻」「暮らし」「団地」といった本作のレイヤー構造を、ギャラリーの空間でそのまま劇場的に表現できたらと思案しています。
写真や映像などの手段を用いて、様々な物語を紡いで行きたい
——今後の活動について、目標や挑戦したいことなどはありますか?
本田さん:今後も、基本的には今回の作品の続きや、これまでに撮り続けている作品、「東京8×10」に向けた作品などをさらに撮り進めることになると思います。挑戦したいことは、多くの人に出会ってポートレートを撮ることや今回の作品以外のシリーズも写真集にしてみたいといったことがあります。このほか、映像の勉強や作品制作も行いたいと考えています。作品としては、映像になるか、写真集になるかわかりませんが、物語を作りたい、物語作家でいたいというスタンスに変化はありません。
会期:2022年4月28日(木)~5月11日(水)
11:00~17:00 / 日曜休館