エプサイトギャラリー公募展・epSITE Gallery Award

2019年・第1期(第22回公募選考会)選考委員評

選考の様子

選考会の様子

選考委員
上田 義彦
(写真家 多摩美術大学グラフィックデザイン学科教授)
速水 惟広
(T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO(東京国際写真祭)ファウンダー)

2019年11月上旬~2020年3月下旬までの期間にエプサイトギャラリーにて写真展を開催する作品を選出する公募選考会を行い、6組の出展者を決定しました。選出された作品と選考委員のコメントは以下のとおりです。
また、今後応募を希望される方へ選考委員からのアドバイスを掲載していますので、こちらもご覧ください。

選出作品(50音順)

有川 典宏「Comfort/居心地」

有川 典宏「Comfort/居心地」

[プロフィール]
有川 典宏(norihiro arikawa)
滋賀県長浜市生まれ 日本大学芸術学部写真学科卒業
スタジオマン、アシスタントを経てフリー。現在はSPC所属
個展:「ESPLANADE」(2000年/コンタックスサロン銀座・ほか)
「IGOKOCHI/居心地」(2017年/キヤノンギャラリー銀座・名古屋・札幌)
https://www.norihiroarikawa.com/

【上田 評】
被写体の女性の部屋で撮られた作品だが、作者の興味は現代女性がパーソナルスペースに“どのように居るのか”といった点に向けられている。そのためできるだけ自然な状態で撮ろうとしているようだが、写真は自然ではなく、自然に振舞おうとすることによる不自然さや違和感が際立ち“生っぽさ”さえ感じられる。おそらく被写体の彼女らも違和感を感じているはずだが、作者がそれをも狙っているのだとしたら相当に面白い作品だ。
【速水 評】
誰でも写真が撮れる時代だが、人物ひとり一人に許可を頂いて信頼を築いた上で撮らせもらうことが難しい時代でもある。そうしたなか、それなりに年齢の高い男性が、数多くの女性の家に行って撮影するというのは非常に難易度が高いが、それを実現しているところに“強さ”がある。しかも、今の時代の女性がどのような暮らしをしているかなど、見えてくる内容も多彩。なかでもリラックスしているかのように撮られた写真は魅力的だ。

河村 理沙「Curtain Call」

河村 理沙「Curtain Call」

[プロフィール]
河村 理沙(risa kawamura)
神奈川県出身、東京都在住。青山学院大学卒業。夜の写真学校27期修了
2016年 第5回キヤノンフォトグラファーズセッション ファイナリスト
2018年 個展「Telling Stories」(Place M/東京)
http://www.risakawamura.com

【上田 評】
「写真を撮りたい」と思う衝動の原因は、パッと見た瞬間のできごとだ。特にスナップ写真では、まるで早撃ちガンマンの射撃のように間髪入れずに撮らなければ本当に撮りたい瞬間を狙うことはできず、考えるよりも早く撮る必要がある。この作品では、そうした瞬間が数多く捉えらえており、撮る衝動の原因を捉えることに成功している点を評価したい。また海外の写真でありながら、日常の瞬間として捉えられている点も素晴らしい。
【速水 評】
撮影はロンドンで行われているが、興味本位の旅行者的な視点ではなく、さまざまなものを実際に見た上で撮りたいと感じた瞬間を自然に撮影しているのが伝わってくる写真だ。撮影地の生活者に極めて近い視点で日常を丁寧に切り取ることで、独特の厚みが感じられる作品に仕上がっている。この作品は同じ大きさ、場合によっては少し小さめのサイズで坦々と見せることで、その面白さが見る人に伝わっていくタイプの作品だと感じる。

斎藤 朱門「流転する風景II」

斎藤 朱門「流転する風景II」

[プロフィール]
斎藤 朱門(syumon saito)
2013年カリフォルニアにて、とあるランドスケープフォトグラファーとの出会いをきっかけにカメラを手に取り活動を始める。海外での活動中に目にした作品の臨場感の素晴らしさに刺激を受け、自らがその場にいるかのような臨場感を出す撮影・レタッチテクニックの重要性を感じ、独学で風景写真を学び始める。
現在も日本のみならず海外へも訪れ、精力的に自然を撮り続けている。

【上田 評】
海外で撮られた写真は広く大きい視点で“地球という惑星を撮ろう”としている印象で、知らない風景を何とか捕まえたいという意気込みが感じられる。国内で撮られた作品も含め、その本質は「風景の美しさに対する驚き」だが、国内で撮られた作品が幾分技巧的であるのに対し、驚きを素直に写し撮っている、海外での作品に良さを感じる。展示も海外作品を大きくプリントして軸としたなら斬新な展示になるのではないかと期待する。
【速水 評】
“やりつくされた感”さえあるランドスケープ分野において、作者の捉えた海外のダイナミックな風景は新たな可能性が感じられるものだ。一方で日本で撮った風景は既視感があり、撮影技術が先行している印象を受ける。海外で撮られたものは従来の撮影技術の範疇にない広々とした風景の美しさに圧倒された結果、目の前の景色を素直に切り取ったものと思われるが、絵画的でありながら非現実的ではないという絶妙な美しさの作品だ。

宋晨「Bye じゃあさよなら」

SONG CHEN「Bye じゃあさよなら」

[プロフィール]
宋晨(SONG CHEN)
1987年生まれ
中国出身
2016早稲田大学社会科学研究科卒
2019多摩美術大学美術研究科卒

【上田 評】
ポートレートの力強さに惹かれた作品。写っている人物の“圧力”が感じられ、それが写真の強さにも繋がっている。
また、人物の周辺の風景が、スナップとしてしっかりと写されている点も強さを引き立てている。
撮りたいものがはっきりとしていて、写真のセレクトからも上手さが感じられる。実際の展示では、プリントの大きさなどによって写真に強弱を付けると、良さがさらに引き立つと思われ、どのような展示になるか楽しみな作品だ。
【速水 評】
スナップとポートレートで構成された作品で、それぞれに良さが感じられる。詩的で独特な表現のステイトメントからも面白さを感じた。ポートレートはしっかりと撮りたいものに向き合って撮っている一方で、スナップからは被写体の人物と作者が関わってきた距離が感じられる。何気ない日常のスナップと被写体に対する愛おしさが感じられるポートレートによって、エモーショナルな部分もしっかりと撮られ、技量のある作家だと感じた。

野口 健吾「Along The Way」

野口 健吾「Along The Way」

[プロフィール]
野口 健吾(kengo noguchi)
1984年神奈川県生まれ 立教大学社会学部卒業 東京藝術大学大学院美術研究科修了
2016年ポーラ美術振興財団在外研修員(インド)
2017年吉野石膏美術振興財団在外研修員(アメリカ)
[個展]
2016「Your Life Is Not Your Own」黄金町エリアマネジメントセンター/神奈川
2016「Family Affair」新宿ニコンサロン・大阪ニコンサロン/東京・大阪
2015「Live Your Own Life」Bright Photo Salon/東京
[webサイト]
http://www.kengonoguchi.com

【上田 評】
旅の途中の個性的な人々が数多く登場し、内容的に非常に面白い。一方で見せ方が難しく、サイズ感や並びを十分に考慮する必要があるとも思う。展示の際のヒントとしては応募作品は人物と風景の写真の組み合わせだが、あえて風景の写真を外して人物のみにしたらと思う。風景の写真も悪くはないが、説明的でもあり、見る人に先入観を与えかねない。人々やその装束にフォーカスすることで“新しさ”の感じられる作品になるだろう。
【速水 評】
写真から読み取れるテーマが豊富で「放浪すること」の独特なアイデンティティが感じられる。それは被写体となっている人物の年齢や着ているもの、持っているものなどからも感じられ、見る人によって違った興味を掻き立てられると思う。作品展示はもちろん、作者が見たり感じたりしたものを文章にしてまとめれば書籍としても面白いものになるのではないかと思われ、写真に限らず今後の表現の発展性の面でも興味深い作品だ。

フジモリメグミ「around scape」

フジモリメグミ「around scape」

[プロフィール]
フジモリメグミ(megumi fujimori)
1986年東京生まれ
2008年日本写真芸術専門学校卒
2011年petit geisai#15 準グランプリ
2013年TAP Gallery所属
2015年新宿Nikon Salon/大阪Nikon Salon
2017年ユカイハンズパブリッシングより写真集「apollon」を出版
2019年銀座Nikon Salon/大阪Nikon Salon
他展示会多数

【上田 評】
視線のユニークさが魅力。何でもない日常の風景ではあるが、普通見落としてしまうような場所に視点を置いて切り取ることで、作者の感じている違和感が絶妙に伝わってくる。切り取ることで得られる、写真ならではの「力強さ」や見ることの「快感」が感じられる作品でありモダンな写真だ。できるだけ大きくプリントして展示すれば、見えてくる情報量も増えて魅力が際立つだけでなく、作者にも新たな発見があるのではないかと思う。
【速水 評】
映像表現ではただ漠然と流れてしまい、かつ言葉や文章にしにくい風景を切り取って視覚的に見せている点で、極めて写真的でありコンテンポラリーな作品だ。タイトルの「around scape」という造語からも作品内容がよく伝わるが、見る人にしっかりと写真を見せる工夫が必要になる作品でもあると感じる。展示の際に少し作品点数を絞って大きなプリントに仕上げて見せることで、伝えたいことがより明確になるのではないかと思う。

選考委員総評

  • 上田ご応募いただいた作品のなかに作者の狙いやメッセージが隠れていると感じたものについては、そうしたものが伝わる写真を意識的に見て選考するように心がけました。というのは、作者が写真をセレクトしているのと同様に見る側のセレクトというものがあってもいいはずで、そうすることによって、単純に見たものとは異なる発見がある場合も少なくありません。そのためセレクトして見るという作業は、私にとって作品を理解して選ぶ上でどうしても必要な行為なのです。
  • 速水確かに公募に作品を出される方は皆さん良い視点をお持ちだと思いますが、完璧な状態で応募できる人は少ない。ただ、そのなかでベストな作品を選ぶというのがこうした審査の際の基本的なスタンスです。そのため本当は良い作品なのだけれど、セレクトの違いで選ばれないというケースも少なくありません。選考時に並べ方やセレクトを絞り込むことを試みるとさらに良くなるものもありました。この点は、私にとっても選考する上での新たな発見でした。
  • 上田選ばれたものに関しては、作品ごとに違った「写真の力」を見せていただいたように思います。ただ、選ばれなかった作品の中には展示よりも本にしたら面白そうな作品などもあり、可能性のある作品が少なからずありました。とはいえ、選ばれた作品に関しては私自身もギャラリーで展示されたものを見たいと思える作品を選び出せたと思います。
  • 速水今回選ばれた作品はコンテンポラリーなものやスナップ、ポートレート、風景など、非常にバラエティーに富んでいて見ごたえのあるものになったと思います。しかもいずれも何らかの「強さ」を持った写真ばかりです。展示として楽しめるのはもちろん、これから公募展や写真展示に挑戦してみようと思っている皆さんにとっては、今後の「ヒント」になる展示になるのではないかと期待しています。

選考委員からのアドバイス

写真をセレクトする際は「素直さ」がポイントになると思います。本当に撮りたかった根本のものは何なのかを見失わないようにすることも重要です。それを見失ってしまうと技巧的になり過ぎたり、型にはまった既視感の強い写真になったりします。素直で新鮮な作品は自然と魅力的に感じられます。