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炭素賦課金とは?企業にとってのメリットや導入の背景を解説
「炭素賦課金」は、企業の二酸化炭素(CO2)排出に課金する新しい制度です。国は、2028年度から炭素賦課金を導入する方向性を示しています。しかし、炭素賦課金とは何か、自社が炭素賦課金の対象となるのかどうか、よく分からないという方もいらっしゃるかと思います。
そこで今回は、どのような企業が対象になるのかを含めた炭素賦課金の基礎知識について解説します。なぜこの制度が導入されるのかについても併せてご説明しますので、理解を深め、どのような対応をすべきか検討する上で参考にしてみてください。

炭素賦課金とは何か

炭素賦課金とは、企業の二酸化炭素(CO2)排出に課金して排出削減を促す制度のことです。正式には「炭素に対する賦課金」といいます。炭素賦課金は、CO2排出に価格をつけるカーボンプライシングのひとつとして位置付けられています。カーボンプライシングは、CO2排出に価格をつけることで排出者の行動を変化させる政策手法のひとつです。下図の通り、カーボンプライシングには、「政府によるカーボンプライシング」のほか、企業が自社内で行う「インターナル・カーボンプライシング」などがあります。炭素賦課金は政府によるカーボンプライシングであり、需要家に広く負担を求めるという性質から、炭素税に近い位置付けになると考えられることができます。

(カーボンプライシングの分類。経済産業省・資源エネルギー庁の資料を基に作成)
(カーボンプライシングの分類。経済産業省・資源エネルギー庁の資料を基に作成)

2028年度から導入検討 対象となる企業とは

国は、企業がGX(グリーントランスフォーメーション)に取り組む際のインセンティブとして、カーボンプライシングを活用する考えを示しています。2023年2月には、「GX実現に向けた基本方針」を閣議決定して、炭素賦課金を2028年度から段階的に導入する方針を明らかにしました。

「GX実現に向けた基本方針」では、化石燃料を輸入する企業を対象として、当初は低い負担で導入を始め、徐々に負担を引き上げていくとしています。導入に向けて、今後5年間で必要な法制度の整備や、既存の法令との調整を行うとされているため、この先、炭素賦課金に関する制度改正が本格化していくでしょう。

なぜ導入されるのか? その背景について

では、いったいなぜ炭素賦課金が導入されるのでしょうか?その背景にあるのは、2050年にカーボンニュートラルを達成するという国が掲げる目標です。カーボンニュートラルとはCO2排出量と吸収量・除去量を均衡させることで、達成するにはCO2排出量の大幅な削減が必要です。国内における最新のCO2排出量を見ると、2021年度の温室効果ガス排出量は、CO2換算で11億7,000万トン。2013年をピークに減少傾向にあるとはいえ、さらなる排出削減が必要な状況には変わりありません。そのため、炭素賦課金などの導入によって、企業の排出削減を後押しする施策が進められているのです。

出典:環境省 国内における温室効果ガス排出量の推移。

出典:環境省 国内における温室効果ガス排出量の推移。

炭素賦課金の価格水準は?

炭素賦課金の価格水準は?

2028年から導入が予定されている炭素賦課金ですが、最大のポイントは、炭素賦課金がいったいどれくらいの水準に設定されるのかということです。前述の「GX実現に向けた基本方針」では、炭素賦課金の水準については言及されていません。民間のシンクタンクによると、2028年の導入から2050年の平均で、1トン-CO2あたり2,750円程度とする予測もあります。

その一方で、「GX実現に向けた基本方針」では、炭素賦課金は、現行の石油石炭税や再生可能エネルギー発電促進賦課金の減少を踏まえて導入するとされています。そのため、石油石炭税や再エネ賦課金が今後、大幅に減少するようであれば、炭素賦課金の価格設定にも影響が及ぶと考えられるでしょう。

海外におけるカーボンプライシングの導入事例

海外では、すでにカーボンプライシングの制度を導入している国があります。例えば、北欧のフィンランドでは、暖房用や輸送用の燃料に対して炭素税を導入しています。炭素税の価格は、暖房用が約7,900円/t、輸送用が約8,400円/tとなっています。それに伴って、環境負荷の低いバイオ燃料などは減税、原料や発電などの用途の場合には免税されるという特例も設けられています。炭素税による年間の税収規模は約2,300億円(2020年)です。また、英国でも約2,900円/tの炭素税を導入しており、年間の税収規模は約2,200億円(2020年)にのぼっています。ほかにもスウェーデンやフランスなど、欧州を中心に炭素税が導入されています。

日本の動向「インターナル・カーボンプライシング」

炭素税は国内ではまだ導入されていませんが、企業間では、「インターナル・カーボンプライシング(ICP)」という仕組みを独自に取り入れる動きが広がっています。
インターナル・カーボンプライシングとは、企業の内部でCO2排出量を算出して、それに相当する炭素価格を算定し、自社のCO2削減を促進する取り組みのこと。インターナル・カーボンプライシングは、社内における省エネ活動を推進するインセンティブとなるほか、脱炭素投資や社内の行動変容の促進などにも役立つと期待されています。
こうした特長から、近年、インターナル・カーボンプライシングに取り組む企業が増えており、2022年1月現在、約280社が導入もしくは導入予定であるとしています。

出典:環境省 インターナル・カーボンプライシングとは

出典:環境省 インターナル・カーボンプライシングとは

炭素賦課金がもたらすメリット

2028年度から、一部の企業を対象として炭素賦課金が導入されることは前述した通りです。企業にとって新たな支出が増える一方で、炭素賦課金を減らそうとする取り組みが促進されることにより、さまざまなメリットが生まれると期待されています。
例えば、炭素賦課金の負担を減らすにはCO2削減に取り組む必要があり、企業の脱炭素投資がますます加速するでしょう。脱炭素に取り組んでいることを広くアピールすれば、投資家や取引先からの評価向上が期待できます。また、近年では、学生など若い世代の脱炭素に対する関心が高まっている傾向にあるため、カーボンニュートラルへの取り組みの周知をきっかけに、新たな人材を獲得するチャンスも拡大するでしょう。

中堅・中小企業にも影響が及ぶ可能性がある

国は「GX実現に向けた基本方針」で、中堅・中小企業を含めたGX化を推進してサプライチェーン全体の脱炭素化を進めるとしています。その一環として、2022年度に下請中小企業振興法の「振興基準」を改正して、下請事業者が脱炭素化に取り組むことを推奨しています。

現在、炭素賦課金の対象は化石燃料を輸入する企業とされていますが、将来的により多くの業種が対象に含められる可能性も否定できません。そのため、中堅・中小企業も炭素賦課金の今後の制度動向にしっかりと注目していく必要があるでしょう。

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