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 繁盛店のヒントとコラム

競争に勝ち抜く飲食店のポイントとは?(全3回)
【第2回】「消費者と市場の変化」「価値をいかに把握し、どう高めるか」飲食店のマーケティングの基本は「街×ターゲット×シーン」

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2019.11.29

 これまでの外食産業は、消費者の価値観の変化にしたがって、どのような変遷を見せてきたのでしょうか。

-消費者の価値観の変化

 「ホットペッパーグルメ外食総研」エヴァンジェリスト、株式会社ケイノーツ代表取締役の竹田クニさんは、日本人の消費価値観を「モノ消費(1970年代〜)→コト消費(2000年代初頭~)→イミ消費(2010年代~)」と類型化します。

 モノが満ち足りていたわけではない70年代の日本は、大量生産・大量消費型のアメリカの消費文化に憧れた時代。洋風化することが近代化の証でありました。続く80年代、モノが行き渡り豊かになってくると、人々は他人との差別化を求めるようになり、バブル期を迎えた頃の日本では高価なヨーロッパブランドが人気となりました。
 しかし空前の好景気は長くは続かず、バブル崩壊以降は、人々は、例えば女子大生までもがこぞってブランドのバッグを持つような、誰もがブランドものを求めるような消費のおかしさに気づきます。「みんなが同じものを持つのではなく、人は個性が大事で、多様であるべき」という考え方に徐々に変化。「マイブーム」という流行語もこの頃生まれました。そしてインターネットの一般化による個人の情報発信手段の登場は、こうした価値観の多様化に大きな役割を果たしたといえます。
 こうした変化が起きた90年代以降続く不況期は「失われた20年」と呼ばれますが、消費者の購買意欲は低迷し「モノを売っても売れない。体験を売ることが重要」という「コト消費」の時代になっていったのです。

 そして2010年以降、日本人の意識に大きな転換期が訪れます。
 さまざまな環境変化が続く中、人々には「地球市民として正しい消費をしよう」という考え方が浸透し始めます。所有ではなくシェア、人々の絆をはぐくむコミュニティ、日本回帰、地方回帰など、消費の背景にある精神性が変化し、オーガニック、フェアトレード、食品ロス、他者支援など、社会課題に対して向き合う機運が高まり、こうした課題への対応において共感できない会社の製品は買わないという意識も芽生えました。
 こうした消費価値観を「イミ消費」と呼んでいます。

消費の「価値観」の変化 消費価値観の大きな変化
-外食マーケティングの基本

 消費者の求める「価値」をいかに提供できるか?がマーケティングの最も基本的な考え方。竹田さんは「飲食店のマーケティングの基本は「街」「ターゲット」「シーン」を見定めて、どの店と競争し、選ばれる店になるかを考えること」だと言います。基本的なQSC(クオリティ、サービス、クレンリネス(衛生的で清潔な状態を保つこと)は満たした上で、自店は「メニュー(調理・提供方法)」「食材」「ストーリー」「空間」「接客」の5つの価値のどれを用いて勝負をするのかを決めてくことが重要です。

 自店がある「街」には、どんな会社や商業施設、団地、マンションなどがあり、そこにはどんな人々がいるのか?そしてどんな繁盛店があるのか?感覚値ではなく視察・研究し、どういうタイプの人が自店の「ターゲット」になるかを特定します。「20代後半女性」などとザックリではなく、例えば「○○会社で働く、同世代の中で収入が高め、情報感度が高くSNSの使い方も上手で流行のお店情報にくわしい」のように明確かつ具体的に設定し、そのターゲットの「会社の飲み会」「仕事帰りの仲間との夕食」など、オフィシャル/プライベート、ハレ(非日常)/ケ(日常)のどの「シーン」で店を利用してもらうのか?そこにどんな「価値」(上述の5つの価値)を提供して他店でなく自店を選んでもらうのか?を具体的に考える……。これが飲食店にとって必要なマーケティングだと竹田さんは強調します。

 竹田さんによれば、「こうしたマーケティングを基本に、さらに店舗の競争力を磨いていくためにテクノロジーを積極的に活用することが重要」とのこと。「例えば、タブレットやPOSレジを活用し、ABC分析や併売傾向の分析、顧客のリピーター判別や顧客データベース化で効果的な販促や接客につなげる……など、戦略的に取り組むことが重要。またデジタルサイネージやプロジェクターの活用などは、空間や接客の付加価値アップに効果的」。自店の付加価値を明確にし、取り組みの結果としての集客と評価のPDCAを回し続けることで、自店の価値を磨く好循環が生まれるのですね。

 次回は、飲食店がテクノロジーを用いて、どのような工夫をしていけるのかについて伺います。

竹田クニさん
■プロフィール
竹田クニ(たけだくに)さん
1963年生まれ。「ホットペッパーグルメ外食総研」エヴァンジェリスト、株式会社ケイノーツ代表取締役、日本フードサービス学会会員、一般社団法人 日本フードビジネスコンサルタント協会 専務理事、早稲田大学校友会 料飲稲門会 常任理事。マーケティング、消費者の価値観変化、生産性向上などをテーマに記事執筆、講演、官庁自治体への政策提言活動など行うほか、外食、中食、給食を結ぶB to Bマッチングも手掛けている。

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