舞山秀一に聞く SC-PX3Vで変わる写真プリントの楽しみ方

本格的な作品づくりを楽しめるエプソンのA2ノビ対応顔料プリンター「PX-5002」の後継機種として、新しく「SC-PX3V」が登場した。新開発のEpson UltraChrome K3インクを搭載した「SC-PX3V」は、黒の深みが増して階調性が広がるなど、色の表現力が高まっているのが大きな特徴。また、ロール紙に対応するなど用紙対応力も向上している。今回は、広告やファッション誌、CDジャケット、写真集など、幅広い媒体で活動している写真家の舞山秀一さんに「SC-PX3V」を試していただき、その実力や使用感、写真プリントを楽しむための使いこなしポイントなどを伺った。

1962年福岡県福岡市生まれ。1984年に九州産業大学芸術学部写真学科卒業後、株式会社スタジオエビスに入社。同年、半沢克夫氏に師事。1986年、独立。1988年、第22回APA展にて奨励賞を受賞。現在、広告やファッション雑誌、CDジャケットなどでポートレート中心に活動中。同時に写真展の開催や作品集の出版などを定期的に行っている。 2014年より九州産業大学芸術学部写真映像学科 客員教授就任。

舞山秀一

最終的な品質まで責任を持ちたい

舞山さんは、現在「PX-5800」と「PX-5002」をお使いいただいていますよね。普段はプリンターをどのように活用されていますか?

舞山
写真展などで展示する作品や販売する作品をプリントする際に使用しています。また、撮影した写真データを納品するときにいつも色見本をつけているのですが、それをプリントする際にも使用しています。
インタビュー中の舞山さん1

RAWデータの現像からプリントまで、すべてご自身で作業なさっているそうですね。

舞山
もともと銀塩フィルム時代から、写真プリントに関する作業はすべて自分で行っていました。最終的な品質まで責任を持ちたいという気持ちが強かったので、モノクロだけでなくカラーも自分でフィルム現像して印画紙にプリントするところまでやっていたんです。その暗室作業がモニターとプリンターでの作業に置き換わった感じですね。ちなみに、納品する写真データに色見本をつけるのは、いくら自分のモニター上でいい色が出ていても、他人のモニターでは見え方が変わってしまうことがあるため。だから色見本の用紙も、自分のモニターで見ているのと同じ色が出せるという点を重視してエプソン純正の「写真用紙クリスピア〈高光沢〉」を使用しています。

今回は、作品をエプソンのプリンターの画質を最大限に引き出すことを目指して開発されたファインアート用紙「Velvet Fine Art Paper」にプリントしている。この用紙は、品のよいテクスチャーが表面に施されており、上質な手触りを持っているのが特徴。マット紙としてはコントラストや彩度が高いため、ハイコントラストなモノクロ写真からあざやかなカラー写真まで幅広く活用できる。また、ディテールの再現性も高く緻密な表現に向いている。ちなみに舞山さんは、このほかに高級なコットンペーパーと伝統的なバライタペーパーの長所をあわせ持つハーネミューレ製インクジェット用紙「フォトラグ バライタ」などを作品製作の際によく使っているとのことだ。

画質を最大限に引き出す純正用紙

インクジェットプリンターでプリントする際にこだわっていることはありますか?

舞山
できるだけオリジナルの写真データを壊さないことですね。普段プリントする際は、撮影したRAWデータを現像してAdobe® Photoshop®で確認するところから始めるのですが、色の調整などは現像時に行い、Photoshop®でのレタッチは必要最小限にとどめるようにしています。
PCで作業する舞山さん

「Adobe® Camera RAW」などのソフトを使えば、RAWデータの現像の段階で、露光量やコントラスト、彩度、シャープネスなどを細かく調整できますね(RAWデータの現像についてはこちらを参照)。

舞山
現像した写真をプリントしてみて色がおかしいなと思ったときは、Photoshop®上で色を調整するのではなく、もう一度RAWデータの現像からやり直すようにしています。その方がトーンジャンプなどの画質の劣化が起こりにくいんですよ。

「SC-PX3V」の画質は衝撃的

今回、「SC-PX3V」で作品をプリントしてみてどのような印象を持ちましたか?

舞山
何と言ってもディテールの精細さに衝撃を受けました。「PX-5002」でプリントしたものとルーペで見比べるとよくわかるのですが、少しモヤッとしていた被写体の細かい模様がくっきり再現されています。映像の世界だとハイビジョンから4Kになって精細さが4倍になりましたが、それに近い進化を感じましたね。しかも黒の締まりがよくなっているので、立体感や奥行き感なども増しています。ここまで画質がよいと、使っているカメラのレンズの性能がはっきり出そう。よく解像するレンズでシャープな写真を撮っている人にはかなりうれしいポイントだと思います。ただちょっとしたムラも目につきやすくなるので、レタッチするときはこれまで以上に丁寧に作業する必要がありそうですが。
前機種「PX-5002」と「SC-PX3V」のプリントを比較する舞山さん1
前機種「PX-5002」と「SC-PX3V」のプリントを比較する舞山さん2

新開発の「Epson UltraChrome K3インク」は、フォトブラックインクの色材が従来に比べて約1.5倍アップ。マットブラックインクの色材の量は従来通りだが、インクに使われている樹脂に工夫を施してプリントしたときに紙の表面により多くの色材がとどまるようになっている。それにより、これまで以上に精細で深みのある黒を表現できるようになった。舞山さんによれば、「黒の締まりが明らかによくなっていますね。また、SC-PX3Vでプリントした方はルーペで見ると細かい網目模様などがはっきり確認できます。今回プリントした写真は、レンズの性能がびっくりするほどよく再現されています」とのこと。

深みのある「黒」の表現が可能となった新開発のインク

「SC-PX3V」の使い勝手についてはどのような印象を持ちましたか?

舞山
ファインアート紙などの厚紙が前面手差しになり、これまでよりスムーズに給紙できるようになったのがうれしいです。出力し直したいときもあまり苦にならなくなりました。あと、A2ノビ幅のロール紙に対応したのも魅力的ですね。
「SC-PX3V」の使い勝手を確認する舞山さん

今回は「SC-PX3V」を実際に舞山さんの事務所内に設置して試してもらったが、舞山さんは「前面手差し給紙になったことで用紙セットをより確実に行える」点を高く評価。背面手差しは本体の後ろに一定以上の空きスペースが必要になるうえ前面から給紙トレイの状態が見づらいため用紙をセットする際に気を使うそうだが、「前面給紙になったことで連続して用紙をセットする場合もスムーズ」とのこと。「写真展前などはプリントしたあとで作品をすべてチェックして細かなホコリ痕があるだけでもプリントし直しています。そのために何晩も徹夜することも。前面給紙だと再出力の負担が軽くなるので、作業効率も向上しそうです」と語ってくれた。

よりスムーズなプリントが可能に

(注)Adobe、Lightroom、Photoshopは、Adobe Systems Incorporatedの登録商標または商標です。