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「災害大国」といわれる日本。2024年8月に宮崎県で発生した地震の後、南海トラフ地震が起きる可能性が平常時と比べて相対的に高まっているとして政府は「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を初めて発表した。1月には能登半島地震が北陸地方に大きな被害をもたらした。毎年のように地震や台風などの被害が各地で相次ぐ中、企業や団体に求められているのは、災害対策の一環として非常時にビジネスへの影響を抑える「事業継続計画」(BCP)の取り組みだ。
BCPの要件は、復旧すべき事業の特定、人的リソースの管理、インフラやITシステムの冗長化、通信手段の確保、物資の備蓄など多岐にわたる。備えていても、いざその状況になると慌てることもある。BCPに沿って行動しようにも、停電が起きて機器が何も動かないという事態もあり得る。企業にとって効果的なBCPとはどのようなものか。
能登半島地震の発生直後から現地で支援活動をしたエプソン販売と、被災地の電源を確保すべく家電などを動かせるポータブル電源とソーラーパネルを送って支援したJackery Japan(ジャクリジャパン)に企業ができる災害対策を聞く。
2024年1月1日、元日の夕刻に発生した大地震によって能登半島を中心に大きな被害が出た。この場を借りて、被災された方々にお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方やそのご家族に心よりお悔やみ申し上げたい。
能登半島地震は、半島という地理的特徴から被災地へのアクセスが限定されてしまい、支援物資の輸送やインフラの復旧に時間がかかった。ライフラインである電気にも影響があり、配電設備などが被災して広範囲で停電が発生。それを受けて、震災発生の当日から被災地支援のための社内調整に動いたのがJackery Japanだ。
米Jackeryはポータブル電源のメーカーで、12年間にわたってポータブル電源業界をリードしている。ポータブル電源のイメージは“大型モバイルバッテリー”に近い。家庭用コンセントやソーラーパネルから充電しておき、非常時や屋外レジャーなどの場面で電化製品に給電する。モバイルバッテリーとの違いは家電を動かせる点だ。出力電圧が大きいのでPCや電気毛布、ドライヤー、冷蔵庫などを使うことができる。
「停電が発生していると聞き、真っ先に当社のポータブル電源が役に立つと考えました。しかし製品を運ぼうにも被災地までの道路が通行止めになっていて、支援品をどう運べばいいか頭を悩ませました」――Jackery Japanの鈴木広介氏はこう話す。
Jackery Japanは、能登半島に住む人に協力をしてもらいポータブル電源を現地に運んでもらえることになった。その後はヘリコプターも使ってポータブル電源を現地に輸送。ソーラーパネルを同梱(どうこん)することで、現地で充電できるようにした。鈴木氏は「ガソリンの備蓄がなくなって発電機が使えなくなっても、ソーラーパネルとポータブル電源を組み合わせれば太陽から電気を生み出して使えます」と解説する。
2024年1月3日に被災地支援として製品の無償提供を決めてから、輪島市、珠洲市、能登町、穴水町の地域を中心に提供したポータブル電源とソーラーパネルは合計260台(2400万円相当)に上る。ポータブル電源と米SpaceXの衛星インターネットサービス「Starlink」をつなげることで避難所のインターネット通信の確保に役立った。光回線が無事だった場所ではWi-Fi® ルーター(注1)の電源として利用。在宅避難をしている家にポータブル電源を貸し出して洗濯機を回したケースもあったと鈴木氏は話す。
その他にもPCを使った避難者リストの作成や電動工具による崩れかけたブロック塀の撤去作業、避難所の電子レンジや炊き出しに使う炊飯器の利用などさまざまな場面でポータブル電源が活躍した。こうした支援内容をJackeryが公表すると、情報通信業や建築業、生活関連サービス業などからの問い合わせが増えたという。
エプソン製品の販売を手掛けるエプソン販売は、能登半島地震の被災自治体にビジネス向けのインクジェット複合機「エプソンのスマートチャージ」を提供。石川県の災害対策本部の要請を受けて石川県に2台、珠洲市に3台、能登町に2台の複合機を貸し出した。加えて、被災した全てのエプソン製品の修理に関わる技術料を無償にした。
罹災(りさい)証明書の発行をはじめ、自治体は有事の際に紙書類を使う場面がある。被害情報の整理や立ち入り禁止を示す張り紙の印刷、各種マニュアルの配布、ボランティアへの配布資料、医療現場の診断書や処方箋など、紙が必要になる機会は多々あるとエプソン販売の臼崎健一郎氏は説明する。
「被災地の自治体は、災害後に家庭用プリンタを使っていたと聞きました。業務用の複合機を届けようにも物流に限度があり、時間がかかってしまいました」
エプソンのスマートチャージは、印刷やコピーの利用状況に適した複合機と契約プランを選べるサービスだ。同サービスは印刷プロセスに熱を使わないインクジェット方式を採用しているので消費電力を低く抑えられる。業務用のレーザー式複合機は消費電力が約1500Wのものも多いが、エプソンのインクジェット複合機「LM-C6000」は約220Wで1分間にA4用紙60枚(注2)を片面印刷できるので、電力が逼迫(ひっぱく)する災害時にも使えると臼崎氏は胸を張る。
エプソン販売は、2023年の「オフィス防災EXPO」でエプソンのスマートチャージと蓄電池をつないで展示した。展示ブースの来訪者に好評で、省電力のインクジェット複合機であれば非常時でも普段と変わらない使い方ができることを周知できたと臼崎氏は振り返る。
能登半島地震の被災地を支援した両社は口をそろえて事前準備の重要性を強調する。防災士の資格を持つ鈴木氏は「被災地にポータブル電源が届いたのは、Jackery Japanの初動から約3日後でした。災害時は一刻も無駄にできません。備えることの重要さを痛感しました」として、次のように話す。
「首都直下型地震などの大規模災害が起きたら、むやみに移動しないことが基本です。都市部の人が一斉に帰宅すると救助活動を邪魔してしまいます。自治体やNPOは、発災から3日間はオフィスや学校に待機してほしいと呼び掛けています。備蓄品の中にポータブル電源を用意しておけばスマートフォンを充電して安否確認をしたり、PCをつないで簡単な業務をしたりできます」
PCやスマホ、照明器具、複合機、ポータブル電源があれば災害時でも簡易的なオフィスを運営できるのでBCPにつながると臼崎氏は指摘する。エプソン販売もBCPの取り組みとして、Jackeryのポータブル電源をオフィスに備えているという。
Jackery Japanの山本浩之氏は、能登半島地震後に全国の自治体や企業からポータブル電源の引き合いが増えて一時的に在庫切れになったと明かした上で、普段からの備えが大切だと話す。
「平常時と災害時という区別を取り払う『フェーズフリー』という考え方があります。ポータブル電源を防災用と割り切って準備をするのではなく、アウトドアや社内レクリエーションなど日常的に使いながら非常時に頼れる存在として捉えることをお勧めしています」
フェーズフリーの考え方はポータブル電源以外の領域にも広がっている。取り組みを主導するフェーズフリー協会が「フェーズフリー認証」を定めているので対策の参考になるだろう。Jackeryの中容量モデル「Jackery ポータブル電源 600 Plus」(注3)も同認証を取得している。
ポータブル電源があれば電気ケトルでお湯を沸かしたり、電子レンジで食べ物を温めたり、扇風機や電気毛布で暑さや寒さに対策できる。
エプソン販売は、Jackeryの最新モデル「Jackery ポータブル電源 1000 New」(注3)を使って消費電力が約220Wのインクジェット複合機LM-C6000の動作を確認した。満充電のポータブル電源で約9300枚のA4片面印刷ができた。1日8時間の中で約1700枚を印刷して、6日目の途中でポータブル電源のバッテリーが切れた。臼崎氏は「期待以上だった」と驚きをあらわにする。
エプソン販売の検証で使ったJackery ポータブル電源 1000 Newは、個人用途を想定した製品だ。非常時にビジネスを守る法人用途としてJackeryは「Jackery ポータブル電源 2000 New」を用意している。容量が2042Whで定格出力が2200Wなので、冷蔵庫やコーヒーメーカーなどを動かせる。サイズは33.5(幅)×26.4(奥行き)×29.2(高さ)センチ、重量は約17.9キロ。
家庭用コンセントからの充電で、最短2時間で完了する。約1.7時間で満充電にできる緊急充電モードも搭載している。最大400Wのソーラー充電対応で、400Wのソーラーパネルをつなげば最短6時間で満充電にできる。高い安全性と長寿命が特徴の「リン酸鉄リチウムイオンバッテリー」を使用していて、毎日充電しても最長10年間使える。バッテリーの劣化も少ないので、4000回充電を繰り返してもバッテリー残量は約70%を維持する。
フェーズフリーの備えにも対応している。UPS(無停電電源装置)機能を搭載しているので、「電源コンセント→ポータブル電源→電子機器」という順番で接続すれば停電時にポータブル電源からの給電に切り替わるので電子機器の停止を防げる。「パススルー機能」によって電源コンセントに常時接続してもバッテリーが劣化する心配はない。ただしUPS機能の切り替え時に瞬間的(20ミリ秒)に給電が途切れるので、サーバなど重要な機器への利用には注意してほしいと山本氏は付け加える。
ポータブル電源で動かせる機器は消費電力によって変わる。オフィスの規模や用途に応じて、適切な出力電圧のポータブル電源を選択することが望ましい。Jackeryは拡張バッテリーを追加して容量を増やせる「Jackery ポータブル電源 1000 Plus」(注3)(定格出力2000W、容量1264Wh)や、「Jackery ポータブル電源 2000Plus」(注3)(定格出力3000W、容量2024Wh)など幅広い選択肢を取りそろえている。
Jackery Japanとエプソンの製品を導入することは、BCPと同じく企業に求められる社会的な責任の観点でもメリットがある。Jackery Japanは廃棄バッテリーの無償回収とリサイクルに取り組んでいる。エプソン販売の調査によると、レーザープリンタをエプソンのLM-C6000に換えると62%のCO2削減効果(注4)が見込めるという。
「ポータブル電源とエプソンのスマートチャージを組み合わせれば、停電時でも普段のままの使い勝手を実現可能です。復旧作業の心理的なストレスを減らす効果も期待できます」(臼崎氏)
「能登半島地震の経験から、被災地を迅速に支援するにはさまざまなハードルがあることが分かりました。企業のBCPにポータブル電源を組み込んで、最低限の安否確認や発災から数日間の生活や業務を守れるような備えを考えてください」(鈴木氏)
BCPというと非常時などの“特別対応”を考えがちだが、平常時から備えることが重要だ。「ライフラインである電源を確保しておく」「停電時でも動く電子機器を導入しておく」など、できる対策はさまざまある。平常時から利用できれば投資が無駄になる可能性も低い。日常的に使いこなせるようになれば、いざという時にも慌てずに普段通りの対応ができる。いまからできることを地道に進めることが大切だろう。